「東大理3」の学生たちは皆、6年間休む暇もなく勉強して卒業前の難関試験「医師国家試験」に挑まなければならない。筆者はそれに加え、家庭の事情で自らの生活費や教科書代を稼がねばならない状況に陥ってしまったという。しかし彼は人を羨むことなく自分自身と闘い、見事現役で医師国家試験に合格して研修医となった。本稿は、多田智裕『東大病院をやめて埼玉で開業医になった僕が世界をめざしてAIスタートアップを立ち上げた話』(東洋経済新報社)の一部を抜粋・編集したものです。
東大理3生の
「人生すごろく」とは?
「人生すごろく」ではないですが、当時は東大理3に入学すると、だいたい卒業後10年くらい先までのルートが見えていました。
教養課程の2年間は理2(薬学部や農学部に進学する)の同級生と一緒に学び、その後医学部に進学し、3~4年目で医学の基礎、5~6年目で臨床を学びます。
卒業前に医師国家試験があって、合格すれば研修医となります。卒業後は東大病院に勤め、大学の医局に入ります。そこで2年間研修したあと、さらに医師として3~4年経験を積み、専門医を取得すると、今度は東大大学院に入って4年間過ごし、博士号を取得します。
ここまでで30代半ばになりますので、その後は東大病院に残るか、市中病院に出るかを選ぶ……。9割方、このルートに沿って進路を選択していたと思います。
まずは6年間の学部生としての日々が始まりましたが、おそらく特に文系の人たちからすれば、驚くような時間割だったと思います。特に教養課程の2年間が終わって、医学部専門課程に進学してからの4年間は、朝から晩まで寸分の隙もなくみっちり授業が入っていたからです。
生理学、生化学、微生物学、解剖学、病理学など、基礎科目だけでも十数あります。しかも、医学部が厳しいのは、1つでも単位を落とすと進級できないことです。
それはもっともな話で、たとえば微生物学の単位を落とす、つまり微生物学を理解していない人に医師になられては、感染症の患者さんにとってははた迷惑です。あるいは解剖学を知らない医師に手術されるなんてたまったものではありません。ですから医学部の学生は、1つ1つの科目を、手を抜くことなく勉強します。
当時はそれがあたりまえで、自分たちがほかの学生とはまったく違う生活を送っていたのを知ったのは、卒業してからのことでした。それこそ、「4年生になると週1回しかキャンパスに行かなかったけどね」なんて話を聞いて、卒倒してしまったのを覚えています。