それよりも、自分自身との闘いが一番大事です。比べるなら、昨日の自分と今日の自分を比べたほうがいいのではないでしょうか。

 他人と比べて、他人に勝つより、自分に勝つことのほうが難しいことだと思います。それなら、難しいほうにチャレンジしたほうが楽しいのではないでしょうか。

実はかなり難しい
医師国家試験

 そういうわけで、大学の途中からは勉強とアルバイトに明け暮れる日々でしたが、苦学生だったというのとは少し違います。1年生の教養学部時は東大全学の競技ダンス部にも参加していましたし、3年からは医学部の部活でバスケットボールもやっていました。

 そんな私も、医師国家試験が近づくと、勉強に集中しました。

 あまり知られていないようですが、医師国家試験はかなりの難関試験です。今は、さらに難しくなっています。昔は5つの選択肢から解答1つを選ぶ形でしたが、今は5択のうち正解がいくつあるかわからない状態での出題になっています。しかも、内科外科のみならず、整形外科や産婦人科含めてすべての科目から出題されますから、手を抜けるところがないのです。

 医師国家試験の合格率を上げるために、試験対策の授業をたくさん用意してくれる大学もあります。東大医学部はそうではありませんでしたから、合格率は80%台から90%台前半でした。不合格になれば、次年度にまた挑むか、医師の道をあきらめるかです。

 幸い私は一度で合格し、研修医になりました。医師になるには、国家試験合格後、2年以上の臨床研修が求められていました。この期間は研修医と呼ばれます。

 学部の5~6年でもBSL(ベッド・サイド・ラーニング)といって、病棟で診察を手伝ったり、手術を見学させてもらったりする実習はありますが、研修医になると指導医のもと、いよいよ医師としての仕事が始まります。

 私たちの時代は、研修医になるときに、どの領域の専門医になるのかを自分で決めなければいけませんでした。私が選んだのは、外科でした。東大病院の第一外科(現在の大腸肛門・血管外科)の雰囲気がとてもよかったのが大きかったと思います。先輩方が、自由闊達で伸び伸びと仕事をされている印象があったのです。