灘中学校・灘高等学校Photo:PIXTA

年間8000件近い内視鏡検査を行う、日本トップクラスの検査数を誇る内視鏡クリニック「ただともひろ胃腸科肛門科」の多田院長。東大病院勤務に挫折も埼玉にて開業後、胃がんや大腸がんを早期発見する「内視鏡AI」を発案。現在はAIメディカルサービスを起業しグローバルスタンダードに挑戦する彼は、いかにして成功につながる行動哲学を身につけたのか?本稿は、多田智裕『東大病院をやめて埼玉で開業医になった僕が世界をめざしてAIスタートアップを立ち上げた話』(東洋経済新報社)の一部を抜粋・編集したものです。

今も自分に影響を与える
灘高の2つの校是

 私はもともと医師になりたいという強い思いがあったわけではありませんでした。偶然、医師を目指す人が多い環境に置かれることになり、医療の世界なら自分でも世の中に貢献できるのではないか、と思うようになっていったのです。

 私は東京に生まれ、会社員だった父の転勤で、小学校のときに神戸に引っ越しました。

 ここで、今となっては伝説の阪口塾に出会いました。

 入塾テストが1週間もある塾です。東大の試験が1次試験・2次試験合わせて4日間ですから、塾の入塾テストにそれ以上の時間をかけるわけです。

 試験内容は阪口先生が授業を行い、その理解度をテストするというものでした。それが毎日です。今思えばこれで子どものポテンシャルを見極めていたのでしょう。

 阪口塾は、塾生の7割ほどが中学受験で灘中学校に合格し、そのまま東大に進むという、めずらしい塾でした。

 事前準備が必要なかったこともあるのでしょう。それまで受験勉強に縁のなかった私でも入塾試験に合格し、そのまま灘中に合格、灘高に進んで6年間を過ごすことになります。

 関西では屈指の進学校である灘校は、中学で1学年約170人しかいません。高校から約50人入ってきますが、それでも220人くらい。そのうち3人に1人が医学部に進みます。私が医師になったのは、この環境が大きかったと思います。

 ほかにも私が灘校で大きな影響を受けたのは、「精力善用」「自他共栄」という灘校の校是でした。

 これは、「柔道」の創始者・嘉納治五郎師範の教えで、

 精力善用――能力があるのであれば、その自己の力を使って相手をねじ伏せたり、威圧したりすることに使わずに、善いこと、世の中の役に立つことに使いなさい

 自他共栄――互いに信頼し、助け合うことができれば、自分も世の中の人も共に栄えることができます。自分だけではなく、みんながウィン・ウィンになるように自他共に栄える世の中をつくりなさい

 というものです。

 この2つを6年間で徹底的に叩き込まれたことが、医療の世界に進んだあとにも役立ったと確信しています。ちなみに灘校では、体育で柔道が必修となっています。