指導教授の金言
「365日24時間、医者であれ」

 私が医学生だった30年前は、医師にはプライベートな時間などない、という空気が支配的でした。「それが嫌なら医師の道を選ぶべからず」という話が、授業でも普通に語られていました。

 今も覚えているのは、のちに東大名誉教授となった黒川清先生のお話です。東大医学部から米国に渡り、UCLA医学部内科教授をはじめ、多くの役職を歴任した方です。

 そんな雲の上の人から、

「オレが学生の頃は、風呂に入っているときも本を読んでいた。だから、溺れそうになったことがあったんだ」

 と言われると、まだ学生ですから、

「黒川先生がそう言うのなら、そうなんだろう」「やっぱり、そのくらいやらないと、医師にはなれないんだ」

 なんて思ってしまうわけです。

 しかも、黒川先生だけではなく、授業に来る教授、来る教授が皆同じような話をするのですから、ハードな毎日があたりまえだと思うようになるのに時間はかかりません。嫌になってしまう人もいたかもしれませんが、私はむしろこうした話に感化され、授業を休んだらもったいない、くらいに思っていました。

 NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』に登場されたことのある幕内雅敏先生も、私が指導を受けた教授の一人です。番組内で、「365日24時間、医者であれ」と語っていましたが、先生は東大医学部教授時代、本当に毎日教授回診をされていました。大みそかも欠かさずです。さすがに元日こそお休みでしたが、病院には来ていましたし、1月2日以降は毎日回診していました。

 もう1つ、東大理3に入学してあらためて感じたのは、学生たちのレベルの高さでした。

 あたりまえの基準が上がると言えばいいでしょうか。とにかく皆、頭がいい。知力、頭の回転、本を読むスピードもまったくケタ違いです。

 テスト前になると、1ページも読んでいなかった教科書を1日で読み切って「優」をとってしまう、なんていうのもあたりまえでした。