“災害級”と揶揄される猛暑の夏、水辺で涼しく過ごしたくなる人も多いだろう。ただし、水難事故の知識や備えなしで遊びに行ってはいけない。水難事故で命を救う確率を上げる予防策や、いざ事故に巻き込まれたときにとれる対応を水難学会の木村隆彦会長(明治国際医療大学保健医療学部救急救命学科教授)に聞いた。(ダイヤモンド・ライフ編集部 松野友美)
大人に多い水難事故
最多は「魚とり・釣り」
東京や大阪などの都市部に暮らす人にとって、「水難事故」はさほど身近に感じないものなのかもしれない。
しかし、警察庁のデータによると、2023年に1392件の水難事故が起きており、743人もの死者・行方不明者が発生している。水難者総数*が一番多かったのは沖縄県(169人)だったが、東京は83人と全国で2番目に多く、その半数以上が命を落とした。
東京の人口母数が多いため、事故の件数も増えるのが理由の一つではあるが、東京都下には小笠原諸島など島嶼部や、都西部の秋川渓流(あきる野市)などのレジャースポットがあり、そうした場所でも事故は起きる。“水辺”に日常的に接していなくても、レジャーで事故に遭うケースがあることを意識しておきたい。
*その都道府県における水難者総数で、他地域からの来訪者も含む。
しかも、事故に遭って命を落とすのは、明らかに大人が多い。中学生以下や高校生(またはこれに相当する年齢)の死亡率は9.5%~18.9%だが、18歳以上65歳未満は32.5%、65歳以上は突出して69.0%だった(下図参照)。
大人が水難事故で亡くなる理由として、水難学会の木村隆彦会長(明治国際医療大学教授)は「大人になってから久しぶりに水に入ることで体が慣れていないこと」「事故に遭った時の着衣での浮き方も学校で習っていないこと」を挙げる。
一方で、事故に遭っても助かる可能性が高いのは「子ども」だ。
子どもは、小学校の水泳の授業で溺水予防のための「背浮き」という浮き方を学んでいる。2020年度以降、小学校高学年の体育の学習指導要領に組み込まれているのだ。授業以外でも、遊びで水の中に入る機会が大人よりも多いため、水中での体の動かし方も知っている。
では、大人はどのようなケースで、命を落とすのか。意外なことに「水泳中」での事故数は2番目で、最も多いのは「魚とり・釣り」。つまり、着衣のままで事故に遭うことを想定しておくことが大切だ。
ちなみに、子どもが水難事故に遭い、それを大人が助けに行くケースでも着衣の状態が多いだろう。