より実践的に、そして国際競争へ
ポーター氏の理論を体系化した3部作

 本書の原書『Competitive Strategy』が発刊された5年後の85年には『Competitive Advantage』(邦訳『競争優位の戦略』)を、さらにその5年後の90年には『Competitive Advantage of Nations』(邦訳『国の競争優位』上下巻、いずれもダイヤモンド社)が刊行されました。

写真左から『競争優位の戦略』(1985年12月刊)、『国の競争優位』上巻・下巻(1992年3月刊)。『競争の戦略』と同じく、ボリューム感のある3冊。すべてに、ポーター氏による「日本語版に寄せて」が収録されています。[画像を拡大する]

 前者は米国企業の競争力に対する危機感が広がる中で書かれたもの。部分より全体を重視する視点は、当時の日本企業にポーター自身が多くを学んだことをうかがわせます。後者にもまた、逆境をイノベーションで克服する日本企業が描かれています。

日本が国際的な競争優位を達成したほとんどすべての重要な産業では、数社、あるいは十数社の企業がひしめきあっている。(『国の競争優位』下巻39ページ)

 日本の企業や産業が競争優位な状況から次々と脱落していく昨今、この2冊の書には日本の再生を可能にするヒントがたくさん隠されていると思われます。とまれポーターの視野は企業の競争戦略から国の産業の競争優位、そして産業政策にまで広がり、この3部作によってひとまず理論の体系化が完成したのです。

「産業がちがい、国がちがうと、競争のやり方はみなちがうけれども、競争および競争戦略の基本原理はみな同じだということを発見した」(『[新訂]競争の戦略』464ページ)

 ポーターの現在の肩書きは「ハーバード大学ユニバーシティ・プロフェッサー」というもので、この地位を有する教授には同大学のすべての学部で授業を行う資格が与えられているそうです。その花形教授が20~30年前に提唱した理論は、企業を取り巻く環境が大きく変化した今日においても通用するものなのか。最近のインタビューでそう問われたプロフェッサーは、以下のように答えています。

「80年前後の世界と現在とでは、世界は大きく変貌しました。……しかし、競争の原理自体は何ら変わりません。収益性は依然として、業界構造、および差別化された競争優位を築く企業の能力に左右されます。経営者にとって重要なことは、業界内の競争における変化がいかにして新たなチャンスを生み、同時に新たな課題も浮き彫りにしているかを理解することです」(「ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー」2013年3月号)

 本書の内容は今なお古びることなく、経営者や実務家、学究者たちに有益な洞察を提供し続けているのです。

次回は4月25日更新予定です。


◇今回の書籍 8/100冊目
『[新訂]競争の戦略』

産業が違い、国が違っても競争戦略の基本原理は変わらない。戦略論の古典としてロングセラーを続けるポーター教授の処女作。



M・E・ポーター 著
土岐 坤、中辻萬治、小野寺武夫 訳


定価(税込)5,913円

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◇今回の書籍 9/100冊目
『競争優位の戦略』

競争優位の確保が高業績のキメ手である。その源泉は、会社のどんな部門、どんな活動にも存在する。前著『競争の戦略』の実践版。


M・E・ポーター 著
土岐 坤、中辻萬治、小野寺武夫 訳


定価(税込)8,190円

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◇今回の書籍 10/100冊目
『国の競争優位』
(上下巻)

国際競争で特定の国の産業や企業が成功するのはなぜか。世界の主要貿易国10ヵ国を6年間調査・研究し、メカニズムを解明。



M・E・ポーター 著
土岐 坤、中辻萬治、小野寺武夫、戸成富美子 訳 
定価(税込)上下巻ともに6,627円

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