「超格安ジャパン」で外国人にもっとお金を落としてもらう「外貨稼ぎの秘策」とは?『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから解説する連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。第105回は、オーバーツーリズム問題に揺れる「観光立国」のこれからを考える。

「観光公害」でキャパ超えの浅草

 藤田家創業の地である北海道の活性化プランを求められた御曹司・慎司は、北の大地に賭けた開祖の志に思いを馳せる。慎司は情報発信とインフラ整備でポテンシャルを生かせば、北海道は世界的なリゾート地になり得るというビジョンを描く。

 作中の北海道再興構想は今の日本が志向する「観光立国」と重なる。森トラストの試算では、2024年のインバウンド(訪日外国人)は23年比で4割近く増え、3450万人に達する見通しという。インバウンド消費は年7~8兆円規模に達し、半導体・電子部品を抜いて自動車に次ぐ「輸出品」に躍り出る可能性が高い。

 半面、いわゆるオーバーツーリズム(観光公害)の弊害は大きくなっている。私がよく立ち寄る浅草やスカイツリーの混雑は凄まじく、特に浅草は明らかにキャパシティーを超える観光客が押し寄せている。行きつけのお店もランチの時間帯を外しても長蛇の列。この半年は足が遠のいてしまった。

 対策として「地方に分散を」という掛け声はごもっともだが、実現のハードルは高い。観光客を誘導しようとしても、なかなか効果は上がらないだろう。

 私は、解決手段は市場原理くらいしかないと思う。すでに訪日外国人向けの二重価格などその兆しはあるが、観光客が集中しているエリアのホテルやレストランはもっと大胆に値上げする余地があるのではないか。異例の円安のなか、多少の値上げでは外国人が「超格安」と感じる状態を脱するのは難しい。

 大都市圏のコストが上がれば、自然と地方への分散も進むはずだ。無論、あれこれ大幅値上げとなれば、日本人にとっては東京や京都、大阪への旅行は高嶺の花となる。首都圏に住む地元民のひとりとしては、レストランでの食事が高くなるのは、かなり痛い。

「おもてなし」は換金できる

漫画インベスターZ 12巻P161『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク

 しかし、私はもう、それでも良いのでは、とすら思うのだ。外国人に大都市圏でしっかりお金を落としてもらって、日本人は地方に出かけてお金を落とす。出張のコストアップはリモートや日帰りなど運用で何とかする。

 こんな暴論に至ったのは、日本の貿易構造の変化を考えると、インバウンドで外貨を稼ぐ重要性が一段と増しているからだ。

 自動車などの海外生産が進み、円安になっても貿易黒字は伸びにくくなっている。一方、サービス収支ではデジタル関連の赤字の膨張が止まらない。それでも経常収支の黒字をキープできているのは、海外子会社の配当収入などを含む所得収支の黒字が大きいからだ。

 だが、この所得収支は外貨のまま海外にキープされる傾向が強く、為替市場で円買い・ドル売り要因とはなりにくい。その点、インバウンドは統計上のサービス収支の黒字だけでなく、現金収入として円安にブレーキをかける貴重な存在だ。

 外貨稼ぎにもうひとつ、小技を提案したい。居酒屋やレストランは、テーブルやレジ横にチップを放り込む小瓶を置いてはどうだろうか。チップ用のQRコードでもいい。

 日本の外食のホスピタリティは、欧米なら15~20%の満額チップに十分値する。「払いたいのに払えない」と感じている外国人は少なくないはずだ。「チップは不要、払いたい人だけどうぞ」と書き添えても、それなりの割合のお客が払うと予想する。「チップはスタッフの待遇改善に使います」と付記し、実行すれば、Win-Winではないだろうか。

漫画インベスターZ 12巻P162『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク
漫画インベスターZ 12巻P163『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク