そこで、気がつくのが、自民党の総裁候補たちは、ただ一人の例外を除いて、留学経験者かそれに準じる国際舞台での経験をもっていることだ。

 ただ一人というのは、石破茂元自民党幹事長だ。石破氏は、外交は苦手だ。外務・財務・経済産業といった厳しい国際交渉を担当する閣僚経験がない。

 かつて、田中角栄元首相は、党三役のうち幹事長を含む二つ、および、外務・大蔵・通産相のうち二つを経験することを首相になる条件だと言った。実際、当時の宰相候補だった三角大福中(三木武夫・田中角栄・大平正芳・福田赳夫・中曽根康弘)はいずれもほぼこの条件を満たしていた。

 現在の日本の政界に将来の首相候補を育てようという風潮はないから、首相の条件についてはやや妥協する必要もあるが、いずれにせよ、石破氏はそういうポストを求めてこなかった。また、長年にわたって「首相候補」といわれながらも、海外へ行って各国の政治家と交流したり、ダボス会議などで演説をしたりすることもなかった。

 総裁選挙の票かせぎに国内での地方回りばかり熱心で、弱点克服の努力をする気がない。内輪の会合では英語での演説をしたこともあるようだが、大きな会合での演説は聞いたことない。もちろん、在外経験などもない。

 トランプ氏は長い説明が大嫌いのため、会談などでもってまわった物言いをされると、すぐに遮って、打ち切ってしまう。そのため、石破氏の良さである丁寧な説明がまったく逆効果になるのだ。

 トランプ氏が大統領時代に嫌っていた政治家の一人が、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)前大統領だ。サミットで「どうしてあんな人が大統領になったのか」と言ったそうだが、石破氏とタイプが似ている。それに安倍氏の仇敵だったこともマイナスだ。「シンゾーの邪魔ばかりしていた男」と認識されたら相当に不利だ。

 さらに、石破氏は20年くらいゴルフをしていないという珍しい政治家で、そのことは決して悪いことではないが、トランプ氏と友達になれるチャンスがひとつ減ることになる。

 ハリス氏はたいへん社交的な人で、クリントン夫妻、オバマ夫妻、ペロシ元下院議長などにかわいがられてのし上がった人だが、石破氏は社交的な会話が得意とは思えない。

海外経験が豊富な
次期総裁候補の面々

 では、石破氏を除く、残りの総裁候補はどうかというと、実は国際人が多く頼もしい限りなのだ。なにしろ、いま首相候補と言われる1950~70年代生まれの人たちは、留学熱が最も高かった世代だ。霞が関の官僚を見ても、エリート層はだいたい留学か海外勤務をしているし、世襲政治家も同様だ。

 ざっと列挙すると、河野太郎氏(世襲議員)は慶応大学中退、ジョージタウン大学卒でポーランド短期留学など。野田聖子氏(祖父の地盤から出馬)は高校時代にミシガン州ジョーンズヴィル・ハイスクールへ留学して卒業。

 日本の大学を卒業後に留学した人物では、ハーバード大学で政治家や行政官を養成しているケネディ・スクールに留学したのが、林芳正官房長官(世襲議員)、上川陽子外相(三菱総研就職後にフルブライト留学)、齋藤健経済産業相(元通産・経産官僚)、小林鷹之前経済安全相(元大蔵・財務官僚)だ。

 小泉進次郎氏(世襲議員)はコロンビア大学修士。福田達夫前自民党総務会長(世襲議員)はジョンズ・ホプキンス大学の元研究員。塩崎彰久氏(世襲議員)はペンシルベニア大学ウォートン校でトランプ大統領の後輩。松川るい氏(外交官)はジョージタウン大学、片山さつき元地方創生相はENA(フランス国立行政学院)に留学している。