老後5000万円問題がやってくるワケ
(1)高騰する「老人ホーム」費用

 厚生労働省が発表した第23回生命表(令和3年)によると、65歳時点の平均余命は男性約20年、女性約25年(つまり65歳まで生きていた場合、男性は85歳、女性は90歳まで長生きするということ)なので、今回は、老後が約20年続くという視点でお話ししたいと思います。

 まずは、1つ目に挙げた老人ホーム費用の高騰について考えてみましょう。

 老人ホームは幾つも種類がありますが、主にコストが安い「特別養護老人ホーム(特養)」と民間の「介護付き有料老人ホーム」に分けられます。

 特養に関しては安い分、すぐに入居できるわけではなく、一般的には順番待ちが生じます。一方、介護付き有料老人ホームは比較的料金が高く、都内の施設の中には、入居のための一時金で1000万円単位の費用がかかるところも珍しくありません。部屋の広さ、アクセスの良さ、設備、人的拡充性などで変わりますが、億単位の一時金が必要な施設もあります。

 ちなみにこのような数億円もするような“超高級”老人ホームは誰が利用しているのか。私の知るところでは、「どうせ資産を残しても多額の相続税を払うなら、晩年に使ってしまえ」というような“相続税の最高税率55%ゾーン”にいる方が多いように感じます。もしくは、十分な定期収入(家賃収入や利子配当収入)がある方が選択しています。

 話を戻しましょう。介護付き有料老人ホームでは、一時金以外にもプラスして月30万円前後、施設に払う費用がかかります。ある老人ホーム紹介会社の関係者は、23区内では入居する際の一時金は2000万~3000万円が相場だと話します。これは、入居時に一括で支払わなければならない金額です。

 さらに、入居後も毎月約20万~30万円の費用がかかります。この費用には、介護サービスや生活費、施設の維持費などが含まれています。これを月額で計算すると、年間で300万円くらいになるでしょう。

 受給できる年金から65歳以降に必要な総額を考えます。

(ア)人生の晩年期(75~85歳の最後の10年):上記の通り介護付き有料老人ホームに晩年10年入居するとして、介護関連生活費を5000万円とします。入居一時金が2000万円、入居後の費用300万円×10年=3000万円で5000万円という内訳です。

(イ)65歳退職直後から75歳までの10年:毎月の世帯の生活費を30万円とします。30万円×12カ月×10年で3600万円という内訳です。

(ウ)年金が受給できるでしょうから、年金額を月14万円とします(厚生労働省「令和4年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、厚生年金に加入していた場合の年金受給額の平均が月14万4982円)。これを20年間受給すると想定して、14万円×12カ月×20年=3360万円の年金が受給できます。

 すると、(ア)+(イ)―(ウ)=5240万円程度を65歳時点でためておいた方が良いという結論になります。入居一時金を1000万円と仮定しても、必要な貯蓄額は4000万円を超えます。

 これが、老後2000万円では足りない、むしろ「老後5000万円問題」といえる理由の一つです。