英語でビジネスをしていると、西欧人、特にアメリカ人から短絡的に思えるYes/Noの答えを迫られることがよくある。そんな時、曖昧な答えしかできないことを引け目に感じている人も多いだろう。だが、曖昧であることも日本人の貴重なアイデンティティーの一つ。逆に、相手に考えさせるような「ウィットの効いた答え方」を紹介しよう。(パタプライングリッシュ教材開発者 松尾光治)
山田さんの曖昧な返事に
スミス氏が3秒+3秒でキレる顛末
Do you need a bag?(袋、いります?)
アメリカのスーパーのレジでも、こう聞かれることは多い。
No thanks.(結構です)と答えればそれで済むのは日本と同じ。
だが、もしI’ve brought mine.(自分の袋を持ってきました)などと答えると、So, do you need a bag?(で、袋はいるの?)と、あらためて聞かれることがよくある。答えが曖昧でYes.かNo.かが分からないせいだ。買い物の量からして自分の袋だけで足りるのは見れば分かりそうな時でも、こういう会話の流れになる。
曖昧な返答をアメリカ人は嫌う。というか白黒はっきりしないグレーな部分を抱えながら動き続ける習慣がないので、なんか困ってしまうらしい。
これがビジネスだとどうなるか? アメリカの地方都市に出張中の山田さんと交渉相手企業の担当者スミスさんの会話を見てみよう。
スミス:So, what do you think? Do we have a deal?(で、どう思います?取引成立でしょうか?)
山田:Sorry, that’s a little…(それはちょっと…)
〈3秒経過。スミス氏我慢できずに口を開く〉
スミス:That’s a little what? Difficult? Inconvenient? What is it?(それはちょっと何ですか?難しい?都合が悪い?何ですか?)
山田:That’s… uhm… difficult, maybe…(それは、うーん、難しい、かもです。)
スミス:What do you mean exactly by difficult?Which part of this deal makes you uncomfortable? Is that the production quota? Tell me. I’m willing to accommodate.(難しいとは具体的にどういう意味ですか?この取引のどの部分が不安ですか?製造割当量ですか?教えてください。私は対応する用意があります。)
山田(心の声):前例がないからもう一度社内で協議せんと。この条件で折れてしまっては、うちの部の連中にも示しがつかん。田中課長の立場も考慮する必要がある。アメリカ人は単純すぎて困るよ。私の困った様子をみて、なんとか察してくれんかなあ。
スミス(心の声):なんとまあ態度が曖昧(ambiguous)なやつだ。何がMaybeだ!こんなシンプルな質問にも即答できないのか。まさか決裁権がない?そんなやつを交渉によこすとは連中は本気でコラボしたいんだろうか?
〈3秒経過。スミス氏がキレる〉
スミス:I need a Yes or No, Mr. Yamada! Can we shake on it?(イエスかノーかで答えてください、ヤマダさん!取引に合意できますか?)
少し誇張したが、日米ビジネスパースンのやりとりの一つの典型だ。
「自己責任で決定。関係者の意向や都合は二の次で良し。決定をころころと(よく言えば柔軟に)変えるのもあり。失敗したら全責任を自分がとる。決断力と行動力重視」というアメリカのリーダーの在り方と、「じっくりとあらゆるシナリオを検討して皆で決める。いったん決めたら皆が迷惑するから基本変えられない。失敗は皆の責任。動きだせば早い」という日本のリーダーの在り方の違いもある。
ただ、スミス氏にそんな違いの認識はない。アメリカのやり方がどこでも通用すると思っている。で、こういうYes/Noを迫られたとき、たいていは日本人が押され気味になる。
「決められましぇ~ん」と受け身な人間より、「きっぱり決めるぞ」といった態度の人のほうが優勢になるものだ。さらに、英語の苦手意識が加わると、自分の曖昧さのほうに落ち度があるような気さえしてくる。人によっては、「もっと英語を勉強しなきゃ」と“あさっての方向”に進んでしまう。
では、曖昧さは日本人が「正すべき」ネガティブな特性なのか?