今の日本では高齢化が急激に進んでいるが、実は葬祭関連ビジネス市場は縮小傾向にある。「亡くなる人が多い」という状況をチャンスに変えられる企業と、そうでない企業で明暗が分かれているのだ。両者を分ける境界線はどこにあるのか。「大手葬儀社の年収」などの裏事情と合わせて、「実家が葬儀会社」の経営コンサルタントが解説する。(森経営コンサルティング代表取締役 森 泰一郎)
高齢化社会(多死社会)で
「葬儀ビジネス」は本当に儲かる?
筆者は独立系コンサルティングファームを経営しているが、実は「大正期に創業した老舗葬儀会社」の生まれである。こうした出自が珍しいためか、昨今は葬儀ビジネスに関する相談や質問を受けることも多い。
その中で気づいたのは、一般的なビジネスパーソンが葬儀業界に対して抱いているイメージがバラバラだということだ。具体的には下記のような意見が寄せられがちである。
「最近は高齢化社会(多死社会)だから、葬儀ビジネスは儲かるんでしょ?」
「コロナのせいで大規模なお葬式ができないから、葬儀ビジネスは厳しいんでしょ?」
そこで今回は、葬儀業界が置かれている現状について整理していく。いわゆる「大手葬儀会社」の給料事情や決算、そして葬儀ビジネスの失敗例についても紹介していこう。
まずは前提知識について。本連載の前回記事でも触れたが、実は葬祭関連ビジネスは市場縮小の窮地に立たされている。
矢野経済研究所が昨秋に発表した「葬祭ビジネス市場に関する調査」によると、2013年時点での市場規模は1.77兆円だった。そこから1.8兆円前後でしばらく推移した後、20年に1.5兆円まで大きく下がった。
20年の規模縮小は新型コロナウイルス感染拡大の影響によるものだが、その後も21年(1.54兆円)、22年(1.64兆円)と回復度は緩やかだった。23年の市場規模は1.73兆円程度だと見込まれている。24年以降も市場規模は回復せず、32年の予測値は1.76兆円にとどまるとされている。
参考記事:『遺族をカモにする「ぼったくり葬儀屋」が言いがちなセリフとは?「実家が葬儀会社」の経営コンサルが警鐘!』
その理由は、コロナ禍を契機に人々の価値観が多様化し、こじんまりとした「家族葬」が増えたからである。雇用慣行の変化に伴って「社葬」が減少したことも大きい。こうした要因によって「葬儀1回当たりの単価」が下がっているのだ。冒頭で例示した指摘の二つ目は、実は的を射ていたというわけだ。
では、葬儀会社の業績が軒並み右肩下がりになっているかと言うと、必ずしもそうではない。