2022年11月、内閣主導で「スタートアップ育成5か年計画」が発表された。2027年をめどにスタートアップに対する投資額を10兆円に増やし、将来的にはスタートアップの数を現在の10倍にしようという野心的な計画だ。新たな産業をスタートアップが作っていくことへの期待が感じられる。このようにスタートアップへの注目が高まる中、『起業の科学』『起業大全』の著者・田所雅之氏の最新刊『「起業参謀」の戦略書ーースタートアップを成功に導く「5つの眼」と23のフレームワーク』が発売に。優れたスタートアップには、優れた起業家に加えて、それを脇で支える参謀人材(起業参謀)の存在が光っている。本連載では、スタートアップ成長のキーマンと言える起業参謀に必要な「マインド・思考・スキル・フレームワーク」について解説していく。
プロダクト/サービスの利用にも当てはまる
パレートの法則
戦略の要諦として「ムリ」「ムダ」「ムラ」を減らしていくことが重要であるということは、以前に説明した。このあとに紹介するフレームワーク「Go-to-Market」を活用して、スタートアップが「ムリ(=無謀)な戦い」を避けるための示唆を出していこう。
「パレートの法則」をご存じだろうか?
パレートの法則とは「全体の数値の8割は、全体を構成する要素のうちの2割の要素が生み出している」という経験則のことだ。これは、プロダクト/サービスの利用にも当てはまる。
たとえば、iPhoneは2022年で約2.5億台出荷されている。凄まじい数だ。世界中で15億人が使っているとされている。ただ、別の見方をすると、2022年に世界の人口が80億人を突破したが、iPhoneユーザーは80億人分の15億なので、65億人は使っていない計算になる。
つまり、世界で一番売れているデバイスであっても、全世界の人口の20%弱しか使っていない(iPhoneは高価格帯10万~20万円なので、相対的に所得が高くない地域では使われていないのだろう)。
プロダクトをローンチする初期段階には、
どこを狙うべきか?
スタートアップが最初にプロダクトをローンチする初期段階においては、私は、「全体の20%の20%の20%のユーザー」(計算すると0.8%、つまり1%未満)の「アーリーアダプター/イノベーター」をターゲットに絞り込むべきであると考えている。
実は、うまくいっている事業/スタートアップは最初にこうしたアーリーアダプターといわれるような初期ユーザーを見つけている。1%以下からスタートして、徐々に横展開や縦展開をして広げていく。こうしたターゲティングをせずに、「目隠しをしたままダーツを投げるように市場を選定する」ようなスタートアップをたまに見かける。
しかし、多くの場合はうまくはいかない。
「鳥の眼」を持って市場全体を見渡し、ユーザーインサイトをベースに、軸を区切り、どこのセグメントから狙っていくのが最適であるかを判断するフレームワーク。それが「Go-to-Market」である。
初期に狙うターゲットは、「ムリ」をしてはいけない。以前にも解説したが、今では世界一のeコマースカンパニーとなったAmazonは、1994年にわずか30万ドルの資本金でスタートした。
「エブリシングストアを作りたい」という創業者ジェフ・ベゾスのビジョンはあったものの、リソースはかなり限られていた。「どの商品を扱うべきか」という分析の結果、「書籍」を扱うことにたどり着いた。その結果、創業25年で世界一の小売企業となった。
プロダクトマーケットフィット(PMF)の「マーケット」という言葉から広範囲なマーケットを狙うというイメージを持つかもしれない。初期のスタートアップは、プロダクト「セグメント」フィットくらいに狭めて考えていくとよい。自分たちにとっての「Amazonの書籍」が何かを見つけることが重要である。
(※本稿は『「起業参謀」の戦略書ーースタートアップを成功に導く「5つの眼」と23のフレームワーク』の一部を抜粋・編集したものです)
株式会社ユニコーンファーム代表取締役CEO
1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップなど3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動。帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。また、欧州最大級のスタートアップイベントのアジア版、Pioneers Asiaなどで、スライド資料やプレゼンなどを基に世界各地のスタートアップの評価を行う。これまで日本とシリコンバレーのスタートアップ数十社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めてきた。2017年スタートアップ支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役CEOに就任。2017年、それまでの経験を生かして作成したスライド集『Startup Science2017』は全世界で約5万回シェアという大きな反響を呼んだ。2022年よりブルー・マーリン・パートナーズの社外取締役を務める。
主な著書に『起業の科学』『入門 起業の科学』(以上、日経BP)、『起業大全』(ダイヤモンド社)、『御社の新規事業はなぜ失敗するのか?』(光文社新書)、『超入門 ストーリーでわかる「起業の科学」』(朝日新聞出版)などがある。