2022年11月、内閣主導で「スタートアップ育成5か年計画」が発表された。2027年をめどにスタートアップに対する投資額を10兆円に増やし、将来的にはスタートアップの数を現在の10倍にしようという野心的な計画だ。新たな産業をスタートアップが作っていくことへの期待が感じられる。このようにスタートアップへの注目が高まる中、『起業の科学』『起業大全』の著者・田所雅之氏の最新刊『「起業参謀」の戦略書ーースタートアップを成功に導く「5つの眼」と23のフレームワーク』が発売に。優れたスタートアップには、優れた起業家に加えて、それを脇で支える参謀人材(起業参謀)の存在が光っている。本連載では、スタートアップ成長のキーマンと言える起業参謀に必要な「マインド・思考・スキル・フレームワーク」について解説していく。

TAM、SAM、SOMで整理して、自社事業の市場規模を算定するPhoto: Adobe Stock

TAM、SAM、SOMとは

 TAM、SAM、SOMについては以前に説明したが、今一度復習しよう。TAMは、Total Addressable Marketの略称で、「ある事業が獲得できる可能性のある全体の市場規模」を意味している。「当該対応可能市場」「対応最大可能性市場」とも言い換えられる。

 介護事業を例に挙げると、その全市場規模は10兆円を超えている(2022年度市場動向について、前年度比4.7%増の11兆8000億円、2023年度は同じく前年度比5.0%増の12兆4000億円)。非常に大きな市場である16)。

 16)https://www.mizuhobank.co.jp/corporate/bizinfo/industry/sangyou/m1072.html

 SAMは、Serviceable Available Marketの略称で、「ある事業が獲得しうる最大の市場規模」を指す。介護事業の中でも、たとえば、介護IoTだけに特化した事業を行うのであれば、SAMは介護IoT市場になる。TAMとして介護事業を見た時には12兆円であったとして、介護IoT事業では260億円になり17)、当然TAMよりは小さい規模となる。

 17)https://space-core.jp/media/11492/

 SOMは、Serviceable Obtainable Marketの頭文字であり、「ある事業が実際にアプローチできる顧客の市場規模」の意味である。介護IoT事業の中でも、首都圏の高齢者住宅向けに絞った場合、それがSOMにあたる。介護事業の全体の4分の1が首都圏で、その中の高齢者住宅は3分の1であるとすると、260億円の12分の1となり、およそ20億円の市場規模があると見込める。

 このように、TAM、SAM、SOMで整理していくことによって、自社の事業の市場規模を算定していくことができる。

TAM、SAM、SOMの算出方法

 具体的にどのようにTAM、SAM、SOMを算出していくかを解説していこう。介護市場というTAMの大きな枠組みの中、SAMがあり、最終的に自分たちの事業の市場のSOMがある。このようにトップダウンで見ていくことで、市場のマクロ的な把握はできる。

 ただ、これを整理したところでなかなかアクションが見えてこない。そこで重要なのがボトムアップの考え方で、それはつまり「顧客の需要側」から始めるということである。

 TAM、SAM、SOMを求める際に、供給側から考えないようにする。Amazonの事業を例にとると、供給側視点では、「本の在庫が1億冊ある。平均1000円で売れるので、1000億円の売上になる」と考えてしまう。

 しかし、ユーザーからしてみたら、別に1000億円分の在庫があろうが関係ない。買いたいものがそのうちの2割であれば、ユーザー側としては200億の在庫で十分だといえる。このように、サプライサイド(供給側)ではなくてデマンドサイド(需要側)から算出することで、ユーザー視点に立って事業規模を把握することができる

 TAMは自社の事業を取り巻く大きな市場である。すなわち、具体的に関連するのはSAMとSOMである。たとえば、介護市場全体(TAM)が12兆円だとしても、その12兆円をいきなり全方位的に取りにいくプランを立てるのはあまりにも無理がある。市場全体の中からどのセグメントを優先的に狙っていくかを考える(こちらを整理するフレームワークは後ほど紹介するGo-to-Market/ロードマップを活用いただきたい)。

 実際にアクションしていく際には、「ニーズが最も顕在化している最初に狙う市場」まで具体化する。まずは下図の通り、SAM、SOMを計算していくことが重要である。

 では、どのように計算していくのか、因数分解をしながら解説する。SAMは下図の通り、「ユーザー数×1回あたりの費用・売上×ユーザーが年間で利用する頻度(もしくは買い換える頻度)」で計算をしていく。

 先ほどの介護の事例で引き続き考えていくと、必要とする施設が12万施設あり、1回あたり介護IoTが100万円かかると仮定する。そう考えると、大体1200億円規模であることがわかる。さらに、毎年買い換えるわけではなく、5年に1回買い替えが必要だとすると、0.2を掛けて240億円になる。ユーザーが年間で利用する頻度やどれぐらい買い換えるかという割合も踏まえていくことで、SAMが見えてくる。

〈100万円×12万施設×0.2(5年に1回買い換え)=240億円〉

(※本稿は『「起業参謀」の戦略書ーースタートアップを成功に導く「5つの眼」と23のフレームワーク』の一部を抜粋・編集したものです)

田所雅之(たどころ・まさゆき)
株式会社ユニコーンファーム代表取締役CEO
1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップなど3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動。帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。また、欧州最大級のスタートアップイベントのアジア版、Pioneers Asiaなどで、スライド資料やプレゼンなどを基に世界各地のスタートアップの評価を行う。これまで日本とシリコンバレーのスタートアップ数十社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めてきた。2017年スタートアップ支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役CEOに就任。2017年、それまでの経験を生かして作成したスライド集『Startup Science2017』は全世界で約5万回シェアという大きな反響を呼んだ。2022年よりブルー・マーリン・パートナーズの社外取締役を務める。
主な著書に『起業の科学』『入門 起業の科学』(以上、日経BP)、『起業大全』(ダイヤモンド社)、『御社の新規事業はなぜ失敗するのか?』(光文社新書)、『超入門 ストーリーでわかる「起業の科学」』(朝日新聞出版)などがある。