権限の小さい現場管理職は、無駄な稟議書、煩雑な承認プロセス、お伺いや根回しといった業務に圧迫され、組織メンバーの自律性は失われていく一方だ。その状況を打開するためのキーワードは「権限委譲」。管理職が役割をシェア・移譲すべき3人のキーパーソンについて、組織や人事の研究者である筆者が解説する。※本稿は、小林祐児『罰ゲーム化する管理職 バグだらけの職場の修正法』(インターナショナル新書)の一部を抜粋・編集したものです。
脱「マイクロ・マネジメント」で
予算と権限を現場管理職へ
「ワークシェアリング・アプローチ」(編集部注/管理職の役割を変更したり共有したりすることで、全体の役割や業務量を調整していくこと)の重要な軸が、「上位管理職から下位管理職へ」のデリゲーション施策です。デリゲーションとは、権限移譲のことです。
拡大画像表示
多くの企業で見られるのは、現場管理職の権限が「少なすぎる」パターンです。端的に言えば、経営や上位管理職が「口を出しすぎる」問題です。法的規定としての「管理監督者」は、事業経営に関する決定プロセスに関与し、人事権を持つといった、経営との一体性が前提となっています。ところが実際の管理職には、そうした経営との一体性どころか、上位管理職からの指示で目標達成を粛々と実行するだけの権限しか無い場合が数多く見られます。
結果として、現場管理職の業務は、無駄な稟議書、無駄な承認プロセス、無駄なお伺いにあふれています。新しい企画や細かなアイデアの実施にも、逐一書類を出し合議制で進めなくてはならないのならば、管理職の自律性は失われて当然です。ほとんど目も通していないのに判子を押しているような承認プロセスをするぐらいなら、個別判断が可能な予算や権限を増やすべきでしょう。
上位管理職から下位管理職への適切なデリゲーションがなされない理由。それは、管理職の階層間の「タテの分業」意識の低さ、そして上位層まで漬かりきっているマイクロ・マネジメントの習慣です。上位管理職が下位管理職に権限を与えず、逐一報告させ、許可を判断し、管理しようとしてしまえば、下位管理職もまた、「考えない部下」と化します。こうしたマイクロ・マネジメントによる主体性の剥奪が、上から下まで階層的に連なっているのが、大企業病に浸食された停滞した組織です。