人の「サボりたい」「ラクしたい」という欲望は尽きず、そうした需要に寄り添った時短家電やサービスが次々と市場に登場している。そんな中、なかなか普及が進まないのが食洗機だ。その背景にある「時間をかけて一生懸命頑張る」=「善」とする考え方は、ブラック企業の考え方にも通ずるのだとか…。※本稿は、松本健太郎『人は悪魔に熱狂する 悪と欲望の行動経済学』(毎日新聞出版)の一部を抜粋・編集したものです。
圧倒的に便利なのに
食洗機はなぜ普及しないのか
明確なニーズがあって、困っている人がいるのに、なかなか世の中に浸透しない耐久消費財の代表格が「食洗機」です。
次のグラフを見れば一目瞭然ですが、「スマートフォン」などに比べると普及率は40%未満と、いまだ一般に普及しているとは言いがたい状況です。食器を洗う手間を自動化してくれるのですから、圧倒的に「楽」になるのは間違いないと思うのですが、なぜかいまいち普及しないのです。
パナソニックが2015年7月に発表したプレスリリースによると、食洗機を購入していない人の理由として「キッチンに置くスペースがない」という理由がもっとも多かったそうです。確かに昔の住宅には「食器洗濯器」の概念がありませんでしたから、置き場所が無いとする理由は頷けます。
そのほかの意見として「贅沢品のイメージがある」「欲しいけど夫や姑に遠慮している」「家族が嫌がる」という理由もありました。こちらは非常に興味深いと筆者は感じました。「さらに楽になる」のを、必ずしも良いと思わない人もどうやら一定程度いるようです。
高価な食洗機をわざわざ買うほど
食器洗いは大変な作業なのか
人間は必ずしも「過去」を「過去のまま」で記憶していません。「楽になる」と伝えても、「もともとそんなに辛くなかった」「私だって苦労してやってきた(のだから貴方も同じ苦労を味わいなさい)」と記憶を捻じ曲げてまで反対する人がいます。それが姑だったら最悪です。
例えば「バラ色の回顧」として知られる傾向があります。
過去の出来事について不要な記憶(嫌だったこと、辛かったこと)を削ぎ落とし、良い評価のエピソードだけを覚えている傾向。
・具体例
大人同士でケンカになった場合、仲裁者が「時間が解決してくれる」という言い方で宥めたりするのは、まさに「バラ色の回顧」が頭の中にあるから。時間が経てば嫌な記憶も忘れてしまう。同窓会に参加すると、昔話に花が咲くのも同じ理由と思われます。