食器を手で洗うのは「面倒」だったり「手荒れが苦痛」だったり、良い記憶ばかりではないはずなのですが、家族との団らんの時間のような楽しい記憶ばかり覚えているため、料理や食器洗いにも良い評価を持ってしまうのかもしれません。

 また、食器洗いのように毎日の習慣として繰り返し行っている行為については、その苦労を過小評価しがちです。

 これは「『よく知っている道』の効果」と呼ばれる現象です。

【「よく知っている道」の効果】Well travelled road effect
 よく利用する道のりの移動時間を少なく見積もり、あまり利用しない道のりの移動時間を多めに見積もるなど、普段行っている作業の労力を過少評価し、初めて挑戦する作業の労力を過大評価する傾向。

・具体例
 初めての作業は余裕を見て作業時間を多めに見積もりますが、何度も経験した作業は「半日でできます」と判断してしまい、結局は丸1日かかってしまうなどの経験はないでしょうか。ちなみに同じ道にも関わらず、何度も通っていると「必要な時間が短くなった」と感じる場合があります。これは当初の「必要だと想定する時間」が、このバイアスのために長めに見積もっていただけで、何回通ろうとかかる時間に殆ど違いはありません。慣れているから多少早歩きで歩いている程度です。

 何十年も食器洗いを続けていれば、「食器洗いなんてたいした労働ではない」「わざわざ高価な食洗機を買ってまで省力化しようと思わない」と判断しがちなのだと思われます。

手を抜ける場面で楽をすると
“怠惰”の非難を浴びてしまう

「バラ色の回顧」「『よく知っている道』の効果」から、人間には「過去の成功にとらわれがち」である、と理解してもいいかもしれません。バブル崩壊後の日本経済が長期にわたって停滞し、「失われた30年」とも言われていますが、そうした不振に陥った理由として「高度成長期~バブル経済の成功体験にとらわれ、新しい技術やサービスへの適応を怠った」点がよく理由としてあげられます。

 同じ理屈が世代間ギャップにも見られます。

 若い世代にとっては「過去の成功体験の呪縛」が「先行世代の不作為や怠慢」のようにも見えるので、令和になった今では「昭和の価値観」を濃厚に漂わせる会社のイメージが良くないと感じる人は多いでしょう。