小林製薬の紅こうじを含むサプリメント(サプリ)服用後の健康被害報告が相次いだ影響か、診療現場でも「このサプリを飲んでもいいか?」と聞かれることが増えているそうだ。
「食品だから安心」「天然素材だから安全」と誤解されているが、サプリや特定保健用食品(トクホ)の中には、治療薬との飲み合わせで、薬の効果を減弱、あるいは過剰に増強するものがある。疾患治療中の人がサプリやトクホの利用に慎重になるのはいい傾向だ。
一方、健康な人はどうだろうか。サプリの王道である「マルチビタミン(MV)」を見てみよう。
MVは疾病予防を目的に服用されることが多く、米国では成人の3人に1人が服用している。ただし、確固とした効果を裏付けるエビデンスは乏しいのが実情だ。
米国立衛生研究所では、国内で20年以上継続している3件の大規模調査の結果を基に、MVと死亡との関係を解析した。
解析の対象者は、調査登録時にがんや心臓病などの慢性疾患がない健康な成人39万0124人。年齢の中央値は61.5歳で、男性が21万6202人(55.4%)を占めていた。
MV服用については、アンケート調査で(1)非服用群、(2)時々服用群、(3)毎日服用群の3グループに分類している。
解析の結果、MV服用と死亡との間には、何ら関係は認められなかったのである。また、がんや心血管疾患など死亡原因別に解析しても、(1)非服用群と(3)毎日服用群の死亡率に差は認められなかった。
慢性疾患を持たない健康な成人がMVを毎日服用したところで、特に利益もないけれど、悪影響もないというわけだ。
米国ではMVの是非を巡って、度々調査が行われてきた。医療界の結論はほぼ「可もなく不可もなく」で、米国予防医学専門委員会は、疾病予防を目的としたMVの摂取を推奨していない。
ただし、食生活が貧しくなっている昨今、MVは欠かせない補助食品の一つでもある。過剰な期待は禁物だが、害がないなら「お守り」代わりに服用するといいかもしれない。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)