宇宙飛行士・野口聡一さんが「他人の目を気にしすぎる人」に伝えたい、帰還後の苦悩から得た教訓とは?Photo:Bill Ingalls/NASA/gettyimages

元宇宙飛行士・野口聡一氏の著書『どう生きるか つらかったときの話をしよう』(アスコム)から、要点を一部抜粋してお届けします。宇宙飛行士として実績を挙げてきた野口氏も、かつては「世間の人たちが抱いている『宇宙飛行士はこういう人だ』というイメージに応えなければ」と気負っていた時期があったといいます。その経験を踏まえて綴られる、「他者の価値観や評価」を気にしすぎてしまう人へのアドバイスとは――。

他者から与えられたものは
いつか失われる

 僕は高校生のときに、「宇宙飛行士になりたい」「宇宙へ行ってみたい」という目標、夢を持ち、そのために全力を注いできました。

「少しでも宇宙に近い仕事をしたい」と、受験勉強をして大学の工学部航空学科に進学し、さらに大学院へ行ったのち、ロケットの開発などもしていた会社に就職し、航空技術者になりました。

 宇宙飛行士候補に選ばれてからは、いつか宇宙へ行く日に向けて、仲間たちと厳しい訓練を重ね、フライト中は組織から与えられたミッションに必死で取り組み、帰還後は世間の人たちから期待される宇宙飛行士像を演じてきました。

 宇宙飛行士として訓練をしているときやフライト中の自分の写真を見ると、おどおどしたところがまったくなく、自信に満ちた表情をしています。

 当時、強制的に自分の思考をポジティブな方向に持って行っていたせいでもありますが、「自分は今、全人類の期待を背負って頑張っている」「世間の人たちが抱いている『宇宙飛行士はこういう人だ』というイメージに応えなければ」と思い、無意識のうちにそのようなふるまいをしていた部分もありました。

 それは、気負っている状態であるともいえますが、ラクな状態でもありました。期待に応えていれば、達成感が味わえ、尊敬され、称賛を得られるからです。

 しかし、フライトを終えてしばらくすると、世間の人たちの関心はほかに移り、背負うものも、期待されるものも、何もなくなってしまいます。

 加えて、2回目のフライト後は、自分でも「やるべきことはすべてやった」「さまざまな記録を達成した」という思いがあり、それゆえに次の目標を見失い、さらにその記録がほかの人によって塗り替えられたことで、大きな寂寥感や喪失感を覚えるようになりました。

 その結果、「自分は何者なのか」「これから何をすればいいのか」「どう生きていけばいいのか」がわからなくなり、何もやる気が起きなくなってしまったのです。「夢を叶えた人間が、何を言っているのか」「贅沢(ぜいたく)な悩みだ」と思う人もいるかもしれませんが、僕にとって、それは大変な苦しみでした。