宇宙飛行士・野口聡一氏の著書『どう生きるか つらかったときの話をしよう』(アスコム)から、要点を一部抜粋してお届けします。宇宙とは無関係な仕事をしている人々は、宇宙飛行士の仕事に対して「宇宙に行くと、感動して人生観が変わるはずだ」といったプラスのイメージを抱きがちです。ところが野口氏は、そんな見られ方とのギャップを感じていたといいます。その理由とは――。
「宇宙に行って人生観は変わりましたか?」
僕は1996年に宇宙開発事業団(NASDA、現・宇宙航空研究開発機構〈JAXA〉)の募集に応募して、31歳で宇宙飛行士候補に選ばれ、2022年6月1日に57歳でJAXAを退職。
その間、宇宙飛行士として合計3回、宇宙へ行きました。
初めて宇宙に行ったのは2005年、40歳のときですが、それから今まで、何度となく次の質問をされました。
「宇宙に行って人生観は変わりましたか?」
たくさんの人がこの質問をする理由は、もちろん僕にもよくわかります。アメリカ人初の宇宙飛行士であるアラン・シェパードは、月面着陸後に「月に行く前の俺は腐りきった畜生だったが、(月に立った)今では普通の野郎になった」と言っていますし、かつて僕が教えをこうたこともある作家の故・立花隆先生は、『宇宙からの帰還』(中央公論新社)の中でこう記しています。
「宇宙体験という、人類史上最も特異な体験を持った宇宙飛行士たちは、その体験によって、内的にどんな変化をこうむったのだろうか。(中略)それがどれだけ体験者自身に意識されたかはわからないが、体験者の意識構造に深い内的衝撃を与えずにはおかなかったはずである」
この名著によって宇宙への憧れと夢を育まれた僕も、「宇宙へ行くというドラスティックな体験をして、人生観が変わらないわけがない」と、ずっと思っていました。
ところが、実際に宇宙に行き、帰ってくると、それまで想像もしていなかったことが僕を待ち受けていました。