自分が納得して得たものは
誰からも侵食されず、奪われることもない

 苦しんだ末にわかったのが、「自分は何者なのか、自分がどういう人間でありたいか、自分は何をしたいのか、自分が果たすべきミッションは何か、といったことは自分で決められる」ということでした。

 それまでの僕は、常に相対評価の中で生き、宇宙飛行士になるために、あるいは宇宙飛行士として、他者から与えられた目標やミッションを達成すること、他者の期待に応えることを当たり前だと思っていました。

 でも、他者から与えられるものがいったんなくなった後、10年かかってようやく、

「自分がどのような存在で、何を大切にし、どう生きていくかは、『他者からどう評価されるか』『実現できるかできないか』といったこととは関係なく、自分一人で決めていい」

「無理に、他者から期待される理想像を追い求める必要はないし、自分と他者を比べ、優越感や劣等感を抱いても意味はない」

 と気づきました。

 そして、「自分はどういう人間で、何が好きで、何が大事で、何ができるのか」「宇宙飛行士になり、宇宙に行ったうえで、自分自身はどうしたいのか、どうなりたいのか」を考えられるようになり、宇宙に行ったことも一つの経験としてフラットに、かつ肯定的に受け止められるようになったのです。

「他者から褒められるかどうか」「社会から認められるかどうか」を気にしたり、ありのままの自分を受け入れられない状態で自分の物語を眺めたりしているうちは、なかなか自分一人で自分のアイデンティティを築くことはできません。

 ですから、みなさんにはまず、「自分の価値と存在意義は自分で決められる」ということを理解していただきたいと思っています。

 それは、長い間他者の価値観や評価、他者との関係性、他者から与えられる役割や目標をベースに生きていた人にとっては、非常に難しいことかもしれません。

 しかし、自分一人でアイデンティティを築き、他者の評価とは関係なく好きなこと、できること、大事なことを見出し、「自分はこうありたい」といった、向かうべき目標や果たすべきミッションが見つかれば、一時的に他者とのつながりが切られたり、他者から目標や役割、評価などが得られなくなったりしても、自分自身を頼りに、前を向いて歩いていくことができます。

 自分が納得して得たものは、誰からも侵食されず、奪われることもないのです。