宇宙飛行士・野口聡一さんが「宇宙に行ったなんてすごいですね」と言われるたびに内心感じていたことPhoto:Tatsuyuki TAYAMA/gettyimages

元宇宙飛行士・野口聡一氏の著書『どう生きるか つらかったときの話をしよう』(アスコム)から、要点を一部抜粋してお届けします。世間一般では「宇宙に行く=すごい体験」だと思われがちです。実際、野口氏もいろいろな人から「宇宙に行ったなんてすごいですね」と声を掛けられたそう。そんな折に、内心で感じていたこととは――。

最初のフライトの後に芽生えた
「こんなもんだったのか」という気持ち

 最初のフライトを終えて地上に戻ってしばらくたったとき、僕の心の中に「こんなもんだったのか」という気持ちが芽生えてきました。

 宇宙へ行く前、僕は「宇宙に行けば人生観が変わるはずだ」と思っていました。

 宇宙体験は、強烈なインパクトを僕の内面世界に与えたし、それがなければ、今の自分がないことは間違いありません。

 でも、宇宙船を操縦する、船外活動をする、といった体験のリアリティがあまりにも大きすぎて、それを自分で客観的に評価したり、自分なりに「消化」したりすることができず、「意外とあっさり終わっちゃったな」と思っていたのです。

 立花隆先生も、『宇宙からの帰還』の中で、次のように書かれています。

「体験はすべて時間とともに成熟していくものである。とりわけそれが重要で劇的な体験であればあるほど、それを体験している正にその瞬間においては、体験の流れの中に身をゆだねる以外に時間的余裕も意識的余裕もないから、その体験の内的含意をつかむことができるのは、事後の反省と反芻を経てからになる」

 それは、甲子園に出場した高校球児が無我夢中で試合を終え、後になって「自分は、甲子園の土を踏んだんだな」としみじみと思う感覚に似ているかもしれません。