おこがましくも私見を述べさせていただくなら、ベンサムは「苦痛」と「快楽」という言葉を用いて、広い意味で「良い気分」と「悪い気分」について表現したかったのではないか。

 物質的な報酬や愛情、感謝、称賛、希望など、様々な刺激や出来事から得られる「快楽」またはポジティブな感情を、私たちは繰り返し追い求める。同様に、人間は肉体的・精神的「苦痛」を回避するようにできている。病気やいじめに遭遇しないよう、愛する人や財産を失わないよう等々、例を挙げればきりがない。

 だから、誰かに何かをしてもらいたいときに、報酬を約束したり(物質的もしくは精神的な「アメ」)、何かを失うぞと警告したり(物質的もしくは精神的な「ムチ」)するのは何ら不思議なことではない。

 もっと長い時間働いたら昇進させると従業員に約束し、食器を洗ってくれた夫に愛を伝えるのは「アメ」である。宿題を終わらせなかったらお仕置きすると子供を脅かし、運動を始めなければ健康を損なうと患者に警告するのは「ムチ」である。

アメで変容した行動は
習慣化される

 ICUの電光掲示板が優れているのは、こうした状況でよく使われる脅しの代わりに、研究者たちが建設的な方法を選んだ点だ。