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筆者は2月の記事「『中小企業は賃金が低い』は本当か?国際比較でわかった日本企業の“真の問題”」(https://diamond.jp/articles/-/338719)において、日本の大企業と中小企業の賃金格差は国際的に見て小さいと書いた。OECDの統計(OECDの定義では、従業員300人未満が中小企業、300人以上が大企業)によれば、賃金給与の大企業に対する中小企業の比率は、ドイツ、イタリア、韓国では55%程度、イギリスでは62%、スイスでは71%となっている。OECDの統計には日本のデータがないが、中小企業庁「中小企業白書(2023年版)」では、大企業に対する中小企業の給与比率は85.0%である。これは厚生労働省「賃金構造基本統計調査」から推計したものであるが、国税庁「民間給与実態統計調査結果」(2022年)でも85.8%となる。すなわち、さまざまな統計をチェックしても、日本の大企業と中小企業の給与格差は国際的に小さい。今回は、この格差が、これまでどのように推移してきたか、そして、その意味は何かについて考えてみたい。(名古屋商科大学ビジネススクール教授 原田 泰)

大企業と中小企業の
給与格差の推移

 図1は厚生労働省「賃金構造基本統計調査」により1999年から現在までの大企業と中小企業の給与格差を示したものである。ここでは、無理にOECDの統計に合わせないで、「賃金構造基本統計調査」の定義をそのままにして、企業規模を1000人以上(大企業)、100~999人(中企業)、10~99人(小企業)に分けた。そして、それぞれの年間給与(残業代を含む6月の給与×12+前年のボーナス)、および、1000人以上の企業に対する比率の推移を見た。

 全体の動きを見ると、2010年ごろまで、どの規模の企業も年間給与は減少してきた(念のためだが、名目値である)。これは2000年のITバブル崩壊による不況、2008年のリーマンショックによる不況の影響である。その後、2013年の異次元緩和の効果もあって上昇しているが、2020年のコロナショックにより、大企業では再び下落した。ただし、中小企業では下落が見られない。

 大企業に対する中小企業の年間給与の比率を見ると、2006年まで低下したが(2006年がボトムで、大企業に対する中小企業の比率が0.74、小企業の比率が0.62)、その後、上昇するようになった。2013年ごろまでは、大企業の給与が減少する中での比率の上昇であった。だが、それ以降、大企業、中小企業の給与がともに増加する中で、大企業に対する中小企業の給与比率が上昇するようになった。