上司が部下のホンネや“欲”を把握していくことで…

 しかし、職場の先輩や上司が、新入社員に対して、「自分中心の考え方でいいよ!」「遠慮せずに、ホンネで仕事をして!」と不用意に口にすることには大きなリスクが伴う。鈴木さんは「フレッシャーズ・コース2025」の文章の中で、誤解のないように、こう説明している。

“「利己的」という言葉の本来の意味である「自分一人“だけ”の利益を考え、他人の利益を顧みない」ことを求めているわけではありません。「自分自身の人生の目的を第一に考えてほしい」という意図を「利己的」と表現しています”

鈴木 自分の利益――つまり、仕事の目的やゴールが、所属する会社や組織のビジョンと一致するのが理想ですが、現実は、なかなかそうなりません。経営者の僕は、役員や部下たちに、「この会社の仕事で、あなたはどれくらいの金銭的、そして、経験などの非金銭的な報酬を得たいですか?」と聞くことがあります。各人の返答を聞いて、「それなら、○○の方法で□□すれば、求めている報酬や経験などを得るための道が見えてくるよね」といったコンセンサスを取ります。ホンネである“欲”をお互いに把握し、仕事で目指すこと・成し遂げたいことの実現に向かえば、結果的に、当人も会社もハッピーになる。経営者である僕も、一緒に働く仲間たちも、自分自身の人生の目的を第一に考えることが大切なのです。「会社のため」「組織だから」といった理由で自分の欲をおさえて仕事に向き合うと認知的不協和が起きます。それは、当人にとっても、組織にとっても、不幸なことです。

 会社のために身を粉にして働いたのに評価されなかった――組織への“滅私奉公”な忠誠心がポキリと折れることで、突然に退職する人もいるだろう。不本意な離職を避けるために、上司が、部下の“欲”や、仕事・人生の目的を知っていくこと――そのためには、適切なコミュニケーションが必要となるが、傾聴からの理解は難しい。

鈴木 僕自身は、相手の話をうまく聞けるタイプではありません。これまでの経験から学んだことは、相手の話をロジック優先で解決しようとしてはいけないということ。それにもかかわらず、年長者として、そして会社の代表者として、つい、「あなたの頭の中を整理してあげよう」みたいな姿勢になってしまう。「○○で、□□で……〇〇だから、□□なことを考えて……そのため……」といったふうに、話の内容が複雑になってくると、「つまり、それってこういうことだよね」と結論づけたくなる。そうすると、そのときは、「ああ、そうです! そのとおりです!」と、相手は納得してくれますが、また1ヵ月後に対話をすると、「あれ? 何か違うな」と……人の思いや考えは、すべてがロジカルに整理できるものではなく、ロジカルであればあるほど、当人のホンネからずれてしまうこともあります。だから、僕は、相手の立場に立って、ホンネの部分に耳を傾ける姿勢で話を聞くように気をつけています。「何だか、いま、わからなくなっています」と言われれば、「わからないかぁ……そうだよなぁ、それはわからないよなぁ」と返すことも。だから、結論が出ないことも多いです。でも、油断するとすぐに整理したくなる。我慢しようとするけれど、我慢できないときも多い。相手の立場になって、同じように考えてみること――当たり前でシンプルですが、それが大切だと思っています。一緒に悩み、「うーん、そっかぁ」で話を聞き終えてもいい。考えを何らかの言葉にすることで、自分自身で解決策を見つけられることもありますから。