意外に知られていない欧州の金融制度
先般、日本証券経済研究所より「英国M&A制度研究会報告書」という報告書が発表された。現段階ではまだ本報告書をもとに、日本の制度に対して何らかの新たな提案がなされるという動きはないが、米国型資本主義への批判、否定が高まりを見せた現在において、それに代わるものを模索する上で、米国以外の金融プラクティスを研究することは有意義である。そのあたりを視野に入れた研究であろうと推察される。
企業経営や金融市場を議論する際、日本の現状を欧米と比較して議論されることが多いが、それらのほとんどの場合は米国と比較しての議論である。実は我々は欧州の金融制度や概念に対してあまり多くを知らない。しかし、一口に欧米と言っても、欧州と米国で制度が大きく異なることは多々あり、また欧州内でも国々によって異なることもある。
たとえば、先般当コラムの第31回において取り上げた民主党が検討中の公開会社法に関して、従業員代表の監査役という制度はドイツに存在するものである。アメリカには存在しない。また、M&A周りでは、今回取り上げる英国のテイクオーバー・コードやテイクオーバー・パネルは、米国には存在しないが、近年、その概念や制度は英国のみならず欧州全般に浸透する流れ(法制化)となっている。
このように、米国以外のプラクティスをも研究し、日本の金融市場、企業経営社会において何がベストかを検討する必要性は以前にも増して高まっているはずである。
少数株主保護の原則:
英国のテイクオーバー・コード
テイクオーバー・コードに関して、詳細は報告書に委ねるが、主な論点は、英国においてTOBを実施する際、30%以上の株式の買い取りを行う場合は、全株買い取りを義務付けているということである。
日本では、買い取り株数の上限を設定することが可能であり、発行済株数の51%のみを買い付けて子会社化するものの、上場を継続するということがよく行われる。たとえば、キリンビールはメルシャンや協和発酵を買収した後も、それら企業の上場を継続させている。この場合、出来上がりの構図は親子上場となるため、親子上場に内在する問題点(親子上場の問題点に関しては、たとえば、永沢弁護士のコラム参照)を新たに発生させることになる。
英国のテイクオーバー・コードのもとでは、そのような一般株主の利害が毀損されうる案件は認められない。一方、アメリカにはそのような規制はない。しかし、アメリカにおいては、その代りに株主代表訴訟が定着しており、経営陣は株主から訴えられるような案件を追求しにくい環境にある。