水野は満洲国が独立した1932年に「打開か破滅か興亡の此一戰」(東海書院)という本を出す。ここではこの満洲国によって、中国で対日抵抗が激化して、それが日米開戦に発展するというシナリオを示して、中国戦線での泥沼化、さらには東京が空襲されて膨大な数の人が亡くなるという近未来まで予測されている。

 では、このような「慧眼」を持つ水野の話にそっぽを向いて、当時の良識のある日本人たちはどのような提言を支持したのか。わかりやすいのは、同じく元海軍少佐の軍事評論家・石丸藤太が著した「日米戦争 日本は負けない」(小西書店)だ。ここでは水野と対照的に戦争で重要なのは「金ではなく人」「国民の精神的動員」だと主張をしたのである。さらに、アメリカ人は愛国心が乏しく、「忠君愛国の精神旺なる日本人には敵し難し」と根拠のない「日本スゴイ論」を披露している。

 ただ、これが良かった。皆さんも自信喪失した時に「お前はスゴイ」と褒められると、前向きになれるだろう。気がつくと、このような「日本人最強説」が巷に溢れて、そこに異論を唱える者は「国賊」「非国民」と批判される、という同調圧力の強い社会になっていた。

 それを象徴するのが最近、NHKの朝ドラ「虎に翼」にも登場をして話題になった「総力戦研究所」が出した「日本必敗」という結論の黙殺である。