さらに、地域住民との協力体制の構築も困難を伴います。バルセロナでは先述した通り、観光客増加に対する大規模な抗議デモに約3000人の住民が参加し、「観光客は家に帰れ」といった強いメッセージで、観光による生活環境の悪化や価格上昇に対する不満が示されました。現地では地域住民と観光業者の間で意見の対立や利益相反が生じており、調整が難航しています。

 こうした事例からもわかるように、持続可能な観光を実現するためには、さらに包括的で長期的な視点からのアプローチが必要です。

観光客のブロックは“負け”
IT活用で解決策を見いだす

 オーバーツーリズム対策として観光客の分散や制限をするのはよいとして、完全に観光客を閉め出すのは“負け”を認めるにも等しいこと。ブロックせずに済む方法を検討すべきだと私は思います。そこで問題に対処するためのアプローチとして、ITの活用は重要な役割を果たしていくと考えられます。

 まず、すでに観光地を訪れている外国人観光客のために何ができるかを考えてみましょう。海外の人にとっての最大のハードルは言語の壁です。観光地での言語の壁を解消するために、各国語での案内を充実させることは重要です。

 近年、AIをはじめとするITの進歩により、観光地の文字案内や音声案内は飛躍的に改善されています。スマートフォンアプリやデジタルサイネージを通じて、観光地の歴史や文化的背景を含む詳細な案内を観光客の母国語で提供すれば、言語だけでなく文化の違いも超えて情報を伝えることができます。AIを用い、観光地の説明やルールをリアルタイムで翻訳して伝えられれば、観光客に対するストレスを軽減することも可能になります。