さらに進んだアプローチとして、個々の観光客にパーソナライズされた旅程を提供することも考えられます。これはデジタルマーケティングの手法を観光業に応用するもので、以前の記事『MLBの観客10%増、デルタ航空の会員200万人増!「あり得ない」を実現する最新デジタルマーケティング戦略の“現在地”』で取り上げた、大リーグ(MLB)やデルタ航空の成功事例が参考になります。

 MLBではデジタルチケット化により得られたデータを基に、AIを活用してセグメンテーションを行い、潜在顧客に対してパーソナライズされたキャンペーンを展開しています。この手法を観光客に対しても適用し、個々の特性に合わせた観光提案を行うことで、人流を効果的にコントロールすることができるのではないでしょうか。複数の施設でデータを共有することで、顧客データプラットフォーム(CDP)のような仕組みを構築し、観光客の行動をより効果的に管理・誘導することもできそうです。

 現在、多くの観光地でキャッシュレス決済は導入されていますが、真のデジタルチケット化にはまだ至っていません。MLBなどの事例を参考に、デジタルチケットとCDPを組み合わせることで、ITを活用した行動観察や行動変容の促進が可能になると考えられます。

デジタルマーケティングの手法
と似た予測技術

 これらの予測技術は、デジタルマーケティングの手法と似ています。オムニチャネル(販売チャネルの統合)やOMO(オンライン・オフラインの融合)といった手法を応用し、観光客の行動データを収集・分析すれば、より効果的な観光客の分散や誘導が可能になるでしょう。

 たとえば、スマートフォンのアプリなどを利用して、特定の場所を訪れた観光客を追跡し、適切なタイミングでキャンペーン情報を送信するなど、観光客の行動を変容させる取り組みも考えられます。サイバー空間とフィジカル空間のデータを組み合わせ、デジタルマーケティングの手法を応用することで、オーバーツーリズムの予測と対策ができ、観光客の行動変容を促せる可能性があります。

 重要なのは、単に技術を導入するだけでなく、観光客の心理や行動の本質的な部分に訴えかけることです。ITを活用して、観光地の環境保護の重要性や地域文化の価値を効果的に伝えることで、より責任ある持続可能な観光を促進できる可能性があります。これらの取り組みにより、観光産業だけでなく地域社会全体に利益をもたらし、観光と地域社会の共存が図れるかもしれません。