アドラー心理学の入門書として2013年末に刊行された『嫌われる勇気』。発売から10年余を経た今もベストセラーとして読み継がれ、ついに国内300万部を突破しました。「人生を一変させる劇薬」とも言われるその内容は、多くの読者に衝撃を与え、対人関係や人生観に大きな影響を及ぼしています。
そこで本連載では、『嫌われる勇気』が説くアドラー心理学の重要ポイントについて、著者の二人が改めてわかりやすく解説していきます。2回目の今回は「劣等コンプレックス」「ほめても叱ってもいけない理由」「課題の分離」「承認欲求」について。

課題の分離こそ人間関係のキモPhoto: Adobe Stock

人生の劇薬!『嫌われる勇気』の教え

Q:「劣等コンプレックス」ってなに?

A:劣等感、という言葉はみなさんもご存じだと思います。「私は学歴に劣等感を持っている」とか「私は容姿に劣等感がある」といった話はよく耳にしますね。そしてアドラーは、劣等感そのものを否定してはいません。劣等感をバネに人一倍の努力する、といったこともしばしばあるからです。

 しかし、劣等感が「劣等コンプレックス」に変質するのはいけません。劣等コンプレックスとは、劣等感を言い訳に課題から逃げようとすること。つまり「私は学歴が低いから、頑張っても無駄だ」と努力を放棄するような態度です。これは劣等コンプレックスであり、アドラーはそのような態度を厳しく批判しています。

Q:なぜ、ほめても叱ってもいけないの?

A:アドラーは子育てや教育に熱心な心理学者でした。そして彼は「ほめてはいけないし、叱ってもいけない」と言います。直感的に、叱ることの弊害についてはよくわかるでしょう。問題は「ほめてはいけない」です。

 じつは誰かが誰かをほめる、という行為の背後には、暗黙的な上下関係が隠されています。上司が部下をほめる、先生が生徒をほめる、親が子をほめるというように。アドラーはこうした上下の関係を認めず、誰とでも「横の関係」を構築するよう、推奨しています。対等な「横の関係」であれば、ほめることも叱ることもなくなるはずです。

Q:「課題の分離」ってなに?

A:すべての悩みは対人関係の悩みである。この原則に立ったとき、「それではどうすれば対人関係の悩みを解決できるのか?」という疑問が浮かんできます。アドラーの答えはシンプルです。対人関係の中に問題が生じたとき、まずは「これは誰の課題なのか?」と考える。そしてそれが他者の課題であれば、介入しない。自分の課題であれば、他者を介入させない。

 対人関係のトラブルは、およそ「他者の課題に介入」したときに発生するものなのです。そして「誰の課題なのか?」を見極めるポイントは、「その選択によってもたらされる結末を最終的に引き受けるのは誰なのか?」を考えること。ここは大事な点なので、『嫌われる勇気』の本文で詳しく解説しています。

Q:なぜ「承認欲求」をもってはいけないの?

A:ソーシャルメディア(SNS)の普及に伴って「承認欲求」という言葉が注目されるようになってきました。他者から認めてもらいたい、他者からほめてもらいたい(いいね!がほしい)と願うことは、ある意味人間の素直な欲求とも言えるでしょう。わたしたちの人間社会は「わたしはあなたの考えを認める。だからわたしの考えも認めてほしい」という相互承認によって成り立っています。

 しかし、承認欲求が行き過ぎると、他者からの承認を得ようとするあまり「自分の人生」を生きず、「他者の人生」を生きることになってしまいます。ここは「課題の分離」とも密接にリンクする話です。