戦時中は日本人全体が夢中で
お互いをだまし合っていた

 自分は無知だった、自分は人が好過ぎた、自分はイノセントだった、だから「だまされた」のだという言い方で戦争責任を忌避しようとする人たちに伊丹は手厳しく筆誅を加えました。その一部を引用しておきます。

 ちょっと長いですけれども、できたら音読してみてください。

「さて、多くの人が、今度の戦争でだまされていたという。みながみな口を揃えてだまされていたという。私の知つている範囲ではおれがだましたのだといつた人間はまだ1人もいない。ここらあたりから、もうぼつぼつわからなくなつてくる。

 多くの人はだましたものとだまされたものとの区別は、はつきりしていると思つているようであるが、それが実は錯覚らしいのである。たとえば、民間のものは軍や官にだまされたと思つているが、軍や官の中へはいればみな上のほうをさして、上からだまされたというだろう。上のほうへ行けば、さらにもつと上のほうからだまされたというにきまつている。すると、最後にはたつた1人か2人の人間が残る勘定になるが、いくら何でも、わずか1人や2人の智慧で1億の人間がだませるわけのものではない。