お笑いコンビ「浅草キッド」の水道橋博士が、「タレント本」を中心に全83作の書評をまとめた661ページの超大作『本業2024』(青志社)を刊行した。本インタビュー記事の中編では、松本人志と北野武の映画批評に共通すること、博士が書籍化を狙っていたという伝説の芸人や、意外な交遊録について紹介する(敬称略、前中後の中編)。(ライター 橋本未来)
>>前編『「ちょっと、こっち来い」20代の中居くんに説教された楽しすぎる思い出』から読む
なぜ、松本人志の映画は
多くの支持を集められなかったのか
――松本人志さんの映画批評本『シネマ坊主』(2002年、日経BP社)の書評では、水道橋博士の師匠であるたけしさんを引き合いに書かれていますね。
たけしさんが今よりもっと多忙な時期に、週刊誌『テーミス』で映画批評の連載を始めたんですよ(1990年7月から1年間)。もともと、師匠はそれほどシネマアディクトな人ではないから、この連載は映画を撮るためにやってるんだろうなって僕は理解していました。
そしたら、『シネマ坊主』の中で松本人志は、「僕自身は決して映画好きでもなんでもなくて、どちらかといえば嫌いな方」と発言している。だから、2人は同じように、映画批評連載をやることで自分に何かノルマを課していたんだろうなって思います。
――松本さんは2007年に長編映画監督デビューして以降、計4本を監督しています。博士は映画評もされますが、松本さんの映画評はされないんですか?
僕は、松本映画がすごい好きなんですよ。良い映画だけど、自分の趣味というか感性を優先させている映画なので、他人に押し付けられないんですよね。だって、今の商業映画の世界で、あんなに自分の100%オリジナルの映画なんて撮らせてもらえないでしょ?
少し前に、宝島社から出た『松本人志は日本の笑いをどう変えたのか』(宝島社)っていう本に寄稿したんです。その関係で読んだ、ある松本人志評がめちゃくちゃ面白かった。
それは要するに、松本人志のような映画監督は存在できないんだっていう観点で書かれていて。例えば、たけしさんがテレビの収入によって映画の作家性が保たれているように、松本さんも圧倒的にテレビの業績において何をしてもいいっていうことになっている。他の映画監督ってなると、どうしても原作モノを求められるから、プロデューサー権限に従わざるを得ない状況もあって作家性みたいなものは認められないですよね。
だから、松ちゃんもコンスタントに作品を発表し続ければ、たけしさんのように世界から評価を得られた可能性も大いにあったと思うんですよ。当時も、海外で集中上映されて高評価だったって聞くし、面白くないことはないと思うんですよね。