この作用機構を利用して、特定の疾患を引き起こすmRNAを破壊するsiRNAを合成して体内に取り込ませると治療が可能になります。反対に生物の生存に必須の遺伝子配列を破壊するsiRNAを体内に取り込ませると、大変な猛毒として作用するわけです。

 これまでにない安全な農薬としてRNA農薬が注目されるのは、特定の生物が持つ特有の遺伝子に作用するため、対象となる生物だけを殺すことになるからです。

 農薬の進化によって、これまでも害虫は殺しても益虫(クモなど害虫を捕食する虫)は殺さない農薬とか、特定の昆虫種しか殺さない農薬は開発されていました。しかし、RNA農薬は特定の虫だけにしか作用しないのです。たとえばウンカならウンカのみ、アブラムシならアブラムシのみを殺し、他の虫には無害な農薬になるというわけです。

 しかも散布するのは合成されたとはいえRNAですから、全生物がもともと体内に持っている塩基です。自然界に放出されても量は微量すぎるほどですし、自然界で普通に分解されるので全く問題がありません。