二人ともいつも関心のアンテナが開いている。関心を持てば躊躇なく食いついていくし、同時に何事も受け入れる懐の深さを感じます。スティーブをはじめ、こうした猛烈な好奇心を持つ人たちに共通しているのは、世の中を変えてきたことです。

 引っ繰り返せば、変化は好奇心がないと生み出せない、と言えます。コンピュータの世界でいうと、ソフトウェアには完成というのはありません。常に改良の余地があり、開発している人間は「もっとよくできるのでは」「もっと楽しくできるはず」と飽くなき追求を繰り返す。おそらく満足感は死ぬまで得られないのかもしれません。

「もっと」という「問い」を抱く。その猛烈な好奇心が新たなモノやサービスを生み、それによって人の暮らし、そして社会そのものを変えていくのです。未来をつくるのは、いつだって現状に満足しないことであり、好奇心によって引っ張り出される「問い」なのです。

 この連載で最初に「好奇心」をあげたのは、一見当たり前のことのように思えても、これ以上に重要なことはないからです。自分が全身全霊で情熱を注げること、心から向き合え、「もっと良くするにはどうすればいいのか?」という問いを持てることが、すべての変化のエンジンです。猛烈な好奇心が未来をつくるのです。好奇心がビジョンを生み、世界を変えていくのです。

「A computer in the hands of everyday people」(普通の人々にコンピュータを届ける)

 これは、スティーブがアップルを立ち上げたときに示したビジョンです。当時、企業で使われる計算機としての機能がメインだったコンピュータを、普通の人でも日常生活で使えることを目指したもので、その後のアップルを方向づけました。

 製品をどう変えていくかとか、どんな機能を取り付けるかということではなく、アップルの製品を使ってユーザーの暮らしがどう変えられるかということが、スティーブの最大の関心の的でした。

「普通の人の生活が前進するためのコンピュータとは?」という問いを持ち続けられたスティーブが常にビジョナリーと言われたのは、彼の嘘偽りのない猛烈な好奇心が常にここにあったからなのです。

 ビジョナリーというのは、別に予言者という意味ではなく、好奇心の先に生まれる「問い」を持てる人のことです。これからの世界で生きるみなさんには、小手先の技術を学ぼうとするより、「夢中になれる問い」を見つけ、常にワクワクできることを目指すようにしてほしいと思います。

 何事にも無我夢中になれる人には誰もかなわないのです。好奇心こそがイノベーションの源泉なのです。(第3回に続く)

次回は4月30日更新予定です。


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山元賢治(やまもと・けんじ)
1959年生まれ。神戸大学卒業後、日本IBMに入社。日本オラクル、ケイデンスを経て、EMCジャパン副社長。2002年、日本オラクルへ復帰。専務として営業・マーケティング・開発にわたる総勢1600人の責任者となり、BtoBの世界の巨人、ラリー・エリソンと仕事をする。2004年にスティーブ・ジョブズと出会い、アップル・ジャパンの代表取締役社長に就任。iPodビジネスの立ち上げからiPhoneを市場に送り出すまで関わり、アップルの復活に貢献。
現在(株)コミュニカ代表取締役、(株)ヴェロチタの取締役会長を兼任。また、(株)Plan・Do・See、(株)エスキュービズム、(株)リザーブリンク、(株)Gengo、(株)F.A.N、(株)マジックハット、グローバル・ブレイン(株)の顧問を務める。その他、私塾「山元塾」を開き、21世紀の坂本龍馬を生み出すべく、多くの若者へのアドバイスと講演活動を行っている。
著書に『ハイタッチ』『外資で結果を出せる人 出せない人』(共に日本経済新聞出版社)、共著に『世界でたたかう英語』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。