職場には秘密で治療を続ける

 主治医からは、42歳という年齢から、タイミング療法(排卵日を予測し性交のタイミングを合わせる治療)や人工授精(採取した精液から運動している精子を選び、排卵の時期にあわせてチューブで子宮内に注入する)は飛ばして、即、体外受精を勧められた。体外受精とは、膣から卵巣に針を刺して卵子を取り出し(採卵)、体外で精子と受精させて後日受精卵を子宮内に返す治療だ。

 治療を受けたいと夫に話すと「ああ、いいよ」と二つ返事。夫はいつもかおりさんの希望することに反対することはない。

「本心はよく分かりませんが、たぶん夫も子どもが欲しかったんだと思います。お金も共通経費の中から出し、検査や通院などが必要な時にも拒否することなく淡々と対応してくれました」

 フルタイム勤務しながら治療できるよう、開院時間が長く土日の休みもない病院を選んだ。早朝の電車に乗り、開院前に並んで順番待ちをし、受診後急いで出勤した。

 その日の治療が終わると、次は2日後、次は1週間後……と言われる。その都度、仕事の折り合いをつけた。休みを取るためにうそをついたり、職場の人と約束した旅行をドタキャンしたこともある。「うそをつくのが本当につらかった」が、言えなかった理由についてかおりさんはこう話す。

「オープンにはしづらかったです。42歳だったので、その年で?とか、そんな治療をしているの?と思われるのが怖くて」