上司に不妊治療のことを明かすが…
20年1月に、台湾へ。卵子提供のための初診を受け、50万~60万円を支払う。日本でのバックアップクリニックにも通院をして準備を進めた。職場には、台湾渡航のために仕事を休む申請をする必要があったため、台湾渡航前に初めて上司に届け出を出し、治療のことを明かした。
「上司がそのことを周囲の人に話してしまったみたいで……きつかったです」
ところが卵子を提供するドナーが決まった、という連絡を受けた段階でかおりさんは悩み始める。台湾では07年に、精子や卵子提供のビジネス化を避けるため「台湾人工生殖法」が整備され、医療機関が主体となり卵子提供を行うことが定められた。また、ドナーの見た目や学歴などを選ぶことがないよう、提供される側に伝えられる情報は血液型や民族、肌の色に限られている。
「自分の遺伝子を受け継いでいない子どもになることを覚悟して台湾まで行って申し込んだはずなのに、土壇場でそれでいいのか、と迷い始めたんです。将来的に、子どもが卵子提供者を知りたいと希望した時に知ることができないことも引っかかりました」
ここでやめたら自分は「子なし」決定。だけど進めていいの?どうしたらいい?頭が痛くなるほど考えた。1日の中でも「進めよう」「やめよう」と気持ちがくるくる変わる。気持ちが不安定だったかおりさんに、夫がかけた言葉が「別に悪いことしてないから、いいじゃん」。その言葉に、自分が罪悪感に押しつぶされそうになっていたことに気づいた。
「夫の言葉に救われ、冷静になることができました」
考えに考えて「迷いがあるままの状態で自分は卵子提供を受けてはいけない」という結論に至り、卵子提供をキャンセルした。