ロジカルなプレゼンなのに、
まったく相手に響かない理由

 営業の場面で考えてみましょう。

 かつての僕は、保険契約を勝ち取るために、「保険に入るべき理由」「保険商品の内容」などを懸命にプレゼンしていましたが、それがどんなに理路整然としたものであっても、一方的に売りつけようとする営業マンに対して、相手の「潜在意識」に不信感や嫌悪感が生み出されるのは当然のことでしょう。

 たとえ、相手の「理性」においては、「なるほど、たしかに保険には入ったほうがよさそうだ」と理解してもらえたとしても、感情的に僕という存在を否定していれば、「だけど、こいつからは絶対に入りたくない」と思うに違いありません。いや、それ以前に、「こいつの話は聞きたくない」と、はなから僕のプレゼンに耳を塞いでいたのかもしれません。

 だとすれば、そんなプレゼンには何の価値もありません。

 だから、僕は、「話す」より「聞く」ことを心がけるようになりました。会話のなかで、お客様が内心で「誰かに話したい」と思っている話題を探りあて、そのお話に、営業マンとしてではなく、一人の人間としてじっくりと親身になって耳を傾けるようにしたのです。

 同じ人間ですから、必ず、自分と重ね合わせて共感できる部分があります。

 そこに心を共振させながら、親身になって話を聞いていれば、お客様も自然と話に興が乗ってきます。なかには、アポイントの時間が過ぎても、お話を続けようとされる方もいらっしゃるほどでした。

 そして、人間誰しも、本当は「話したい」と思っていても、普段は話す機会のない話題にとことん付き合ってくれて、それをしっかり受け止めてくれた相手に対して好感をもってくれます。もっと言えば、自分に気持ちよく話をさせてくれたことに対して、ちょっとした負い目のようなものすら感じてくれるのです。

 このとき、僕にささやかな「影響力」がもたらされます。

 なぜなら、好感や負い目を感じているお客様は、僕に対して「何か“お返し”をしたい」と思ってくださるからです。つまり、僕のプレゼンを聞いていただく姿勢を自然ととっていただけるようになるのです。

 そして、以前とプレゼンの内容そのものは変化がないにもかかわらず、成約確率が明らかに向上したほか、その方の知人をご紹介いただける機会も格段に増加。こうして、僕は「影響力」のパワーを実感するようになっていったのです。