嘘ではない。なんせライドン本人が幾度も語っていることなのだから。数多いシェイクスピア作品のうち、彼が「ロットン」を演じるときのイメージ・モデルとしたのは、名作『リチャード3世』にて描かれた、醜く性格悪く、愛されない王の姿だった。
とくに映画化されたものに、ライドンは大きなインスピレーションを得ていた。名優ローレンス・オリヴィエが監督・脚本・製作・主演の4役をつとめた1955年版の同名映画におけるリチャード3世像が「胸くそ悪くなる感じ」で、ことのほか気に入っていた。もちろん彼が映画を観たのはピストルズ加入前のことだ。そしてライドンは、初めてのバンド活動であるこのときに、自らがリチャード3世と化すことを思いつく。
つまり、ライドンの「教養」ゆえ、薔薇戦争時の15世紀イングランドに生まれ没した、ヨーク朝最後の悪名高き王の「玄孫引き」ぐらいのサンプリングがおこなわれたわけだ。その発想が、唾ばかり吐く、猫背でいつも不機嫌そうなパンク・ロッカー像へと結実した。これによってポップ音楽界は、いや「パンク以降」の大衆文化は、その性質が永遠に変わってしまうほどの「激震」をこうむることになったわけだ。