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大ベストセラーの共通点
物語は、父親が突如抱えた負債により、旧制中学、大学を志していた太郎君が、14歳にして町工場の工員になるところから始まります。もともと向学心旺盛な彼が「いかに仕事を効率良くこなすか」を研究し、その実績が認められて一工程全部、工場全部の効率化にとりかかることになり、そこで得た資金を元に学業にも復帰。そして工場ひいては企業の最適化のための調査を行う調査技師(コンサルタント)として独立し成功していく……という内容です。
P.F.ドラッカーの主著『マネジメント〔エッセンシャル版〕』(ダイヤモンド社、2001)をかみくだき、女子高校生を主人公にした青春小説に仕立てた『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(岩崎夏海、ダイヤモンド社、2009)を思い出しますね。
岩崎夏海著、2009年12月刊行。内容とともに、ビジネス書らしからぬ装丁も話題になりました。
「組織」「マーケティング」「イノベーション」といったドラッカーのコンセプトを弱小野球部の再建と成長のために活用していく『もしドラ』は、中学生から企業のマネジメント層まで多くの読者を獲得し、270万部という大部数を獲得しています。
20世紀初頭のダイヤモンド社と100年後のダイヤモンド社で同じスタイルの経営書が出ていたのでした。池田藤四郎も、物語に仕立て直して青少年から経営層まで科学的管理法を普及させたいと考えたのでしょう。
もう一人の紹介者、安成貞雄は社会主義者としても当時有名な存在だったと書きました。語学が得意で、雑誌「実業之世界」では「誤訳」というコラムで、有名な作家や学者の誤訳を徹底的にこきおろしていたそうです。
その安成が資本主義の総本山、米国のテイラー・システムを称揚しつつ紹介しているのは不思議でした。
しかし、テイラーが「マネジメントの目的は何より、雇用主に『限りない繁栄』をもたらし、併せて、働き手に『最大限の豊かさ』を届けることであるべきだ」と断言しているのを読んで腑に落ちました。テイラーの言葉は、皮肉屋の安成貞雄の心にも響いたのでしょう。
≪参考文献≫
・有田数士「わが国における科学的管理法小説風紹介者の事歴――池田藤四郎について」(「岩国短期大学紀要」第36号、2008)
・石山賢吉『回顧七十年』(ダイヤモンド社、1958)
次回は5月9日更新予定です。
◇今回の書籍 11/100冊目
『新訳 科学的管理法』
製造業の現場に近代化をもたらし、マネジメントの概念を確立したことで“マネジメントの父”とされるフレデリック・テイラーの代表的な著作。マネジメントにかかわるビジネスパーソンの必読書。
フレデリック W. テイラー 著
有賀裕子 訳
定価(税込)1,680円
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◇今回の書籍 12/100冊目
『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』
敏腕マネージャーと野球部の仲間たちが甲子園を目指して奮闘する青春小説。これまでのドラッカー読者だけでなく、高校生や大学生、そして若手ビジネスパーソンなど多くの人に読んでほしい一冊。
岩崎夏海 著
定価(税込)1,680円
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