ダイヤモンド社では経営書、中でもマネジメントに関する書籍を多く取り扱っています。最近では、先年ベストセラーとなった『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』の影響もあり、「マネジメント=ドラッカー」というイメージもありますが、そのドラッカーをして”マネジメントのルーツ”と言わしめる人物がいました。今回紹介するのは、その人、フレデリック W. テイラーによる歴史的な1冊です。

フォード社の大量生産方式を生んだ
科学的管理法

 本書『新訳 科学的管理法――マネジメントの原点』は2009年の出版ですが、原著は1911年に出ています。なんと100年以上前の本です。まさに「マネジメントの原点」。

『新訳 科学的管理法』
フレデリック W. テイラー著 有賀裕子訳、2009年11月刊行。歴史的名著の香り漂う落ち着いた装丁に仕上がっています。

 著者のフレデリック・テイラー(1853-1915)は、ハーバード大学に進学後、病気で中退し、工員見習いとして就業します。それからは働きながら、作業の効率化から生産計画の立案まで独学で考案していました。やがて経営幹部に認められ、のちに機械工学の修士号を取得し、53歳で米国機械学会会長まで上り詰めた人です。「マネジメントの原点」を作り上げた人物として知られています。

 テイラーは作業の標準化、用具の標準化、時間管理の標準化を定式化し、効率的な分業による労働時間の短縮と生産性の向上を実現しました。

 1903年に創業したフォードはテイラーの科学的管理法を導入し、8時間労働制を取り入れ、コスト管理を徹底した大量生産方式を完成させます。科学的管理法による大量生産をテイラー・システム、あるいはフォード・システムともいいます。

 以上は経済学の教科書にも出てくる基礎知識ですが、実際にテイラーはどのように書いていたのか、本書のこなれた日本語によってようやく理解できるようになりました。

 テイラー・システムについては、当時米国の労働組合が大反対運動を展開したように、冷酷な資本家による徹底的な労務管理術のように思われていたこともありました。ところが、本書を一読すれば印象はガラリと変わります。意外なことに、細密な人間観察によって労働者に適切な職場環境を与えるようにしていたのです。