日本の一級山岳の多くが国立公園に指定されている。だが、登山道や山の環境を保護するための体制にはさまざまな問題がある。「日本の山が危ない 登山の経済学」特集(全6回)の第3回では、北アルプスの秘境で人気の山小屋「雲ノ平山荘」を経営する伊藤二朗さんにその問題点を聞いた。(ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)
民営国立公園はもう限界
登山者、行政、企業を巻き込み議論を
――今夏、ヘリコプターが飛べず物資輸送が寸断されたことで北アルプスの山小屋は営業できなくなる寸前の危機に追い込まれました。その状況を訴えた伊藤さんのブログは話題を呼びました。
これを機会に、登山者に現在の山を取り巻く状況を広く知ってもらいたいと願っています。日本の国立公園は、そこに立地する山小屋の経済力に日常的な管理の全てを依存しているのが現状です。建前では国が行うべき管理をいわば「グレーゾーン」内で山小屋が代行している形です。
現在北アルプスで営業している山小屋は、戦後間もなく小屋を建設して山小屋事業を始めた人たちから世襲で引き継がれてきたところばかりです。私が経営する雲ノ平山荘も、父(伊藤正一氏・故人)が1963年に建設したものが始まりでした。
そして、山小屋の間には大きな経済格差があります。標高が低く多くの登山客が集まり経営が安定している山小屋は、何度もヘリを使って重機や資材を上げ、周辺の登山道の整備を行うことができる。一方、奥地で人が来ない経営難の山小屋では、そうした登山道の手当てもなかなかできない。
こうした小屋が仮につぶれれば、その周辺の登山道の整備や自然環境の保護、登山者のケアを行う人は誰もいなくなる。現在山小屋が行っている管理を、なんらかの持続可能な代替手段で行うための仕組みが必要だと考えます。山小屋の経営問題が国立公園の荒廃につながりかねない現状は、健全とはいえないでしょう。
例えば、山小屋の “縄張り”が変わると途端に山の管理状況も変わるし、グループ間で連携ができていないことも多い。北アルプスには山小屋間の組合が幾つかありますが、そのうちちゃんと連携して機能しているのは上高地周辺の一部だけです。
さらに、北アルプス全体が今どのような状況にあり、どのようなことを目標として管理を進めるかなどの全体のプランを描いている主体は、現在どこにもありません。そもそも、山域への入山者数を正確に把握できているわけではなく、オーバーユースを食い止める手段もありません。雲ノ平のキャンプ場は毎年ピーク時には定員の3倍近くのテントが張られますが、入域管理をしていないためどうしようもありません。