セルフネグレクトの原因は多種多様
ゴミ屋敷は決して他人事ではない

 頭ごなしに食生活を否定しても、さらに自暴自棄になり、拒絶されることも多い。そこで山下は、千代がぬいぐるみ好きで、テレビショッピングで買ったぬいぐるみに向かって話しかけているのを活用した。

 自分が好きなものに関しては、千代は目を輝かせて話してくれる。そんな些細な会話を取っかかりにして、少しずつ信頼を得ることで、医療行為にも応じてもらっているのだという。

 それでも、千代はかろうじて山下という繋がりがあるだけ、まだ幸せだ。

 2016年10月、ゴミ屋敷の火災が大々的に報道された。

書影『超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる』『超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる』(毎日新聞出版)
菅野久美子 著

 福島県郡山市で、地元でも知られていた有名なゴミ屋敷が全焼し、住民とみられる男性が死亡しているのが発見された。

 ただでさえ燃えやすいものが堆積しており、もし周囲に引火でもしたら、近所を巻き込んだ大惨事になりかねないところだった。

 孤独死の大半を占めるセルフネグレクトは、失業や離婚、病気などさまざまなことがきっかけとなる。

 誰でもそのような状態に陥る可能性がある。

 だからこそ、山下は壮絶な父の死から、何かを学び、必死に人と人の縁をつむごうと日々、奮闘している。