M&A仲介業界が、固唾をのんで見守る訴訟がある。原告は第二電電(現KDDI)共同創業者で著名経営者の千本倖生氏。被告は事業立ち上げから7年で37社の中小企業を買収するなど、M&A仲介業界内では“ストロングバイヤー”として知られる日本製造とその代表者だ。なぜ千本氏は訴訟を起こしたのか。また、日本製造とはどのような企業なのか。背景を探ると、M&A仲介業界にとって目が離せない事情が浮かび上がってきた。(ダイヤモンド編集部副編集長 片田江康男)

千本倖生氏が起こした訴訟に
M&A仲介業界が大注目

「日本製造はやはりトラブルに発展しているんですね……」。ある中堅M&A仲介会社の社長はこう話す。

 M&A仲介会社は、会社を売却する側と買収する側の間に立ち、買収価格の交渉やさまざまな法的手続きを担う。中小企業の事業承継ニーズが高まり始めたこの数年、急速に発展してきた。そのM&A仲介各社が、固唾をのんで見守る訴訟がある。

 原告は第二電電(現KDDI)の共同創業者である千本倖生氏。千本氏はイー・アクセスの創業者でもあり、2015年から23年まで再生可能エネルギー企業のレノバで会長を務めた大物経営者だ。

日本製造,MJG日本製造本社が入居するビルの表札。以前の社名であるMJGのままだ Photo by Yasuo Katatae

 被告は日本製造と代表者である田邑元基氏だ。日本製造は非上場企業であり、一般的には知名度は低いが、M&A仲介業界内では知られた存在だ。同社は製造業を中心に、技術力がありながら後継者が不在で存続が危ぶまれるような中小企業を買収してグループ化し、「ものづくりプラットフォーム」を構築するとうたっている。

 日本製造は掲げた理想を実現するべく、猛烈な勢いでM&Aを行った。ダイヤモンド編集部の取材では、17年の設立から7年間で、FA(ファクトリーオートメーション)機器メーカーや金属加工会社など、合計37社の中小企業を傘下に収めた。それに合わせて、同社のグループ売上高は204億7546万円に達したとされる(同社ホームページより)。M&A仲介業界内では、積極的な買収を続ける有名な“ストロングバイヤー”なのだ。

 では、なぜ千本氏は日本製造に対して訴訟を起こしたのか。また、そもそも千本氏と日本製造には、どのような関係があったのか。訴訟資料を読み解いていくと、訴訟の背景には事業承継という大義名分の下で中小企業の買収を続ける一方、日本製造の経営が混乱を来たしていた実態があった。そしてそれは、M&A仲介会社が注目せずにはいられない理由でもあった。次ページで詳しく解説していく。