「一見クリエイティヴではない職業でも、クリエイティヴなスキルは必須になる」。
そう語るのは、インプットの最強技法と意識改革をまとめ、大手書店でベストセラーランキング上位にランクインしている書籍『インプット・ルーティン 天才はいない。天才になる習慣があるだけだ。』の著者・菅付雅信氏。
菅付氏は坂本龍一や篠山紀信などの天才たちと数々の仕事をこなし、社会人向けのクリエイティヴ講座を12年間続けている。
本連載ではその菅付氏に、クリエイティヴの本質についてさまざまな角度から語って頂く。第2回は、彼が「一見クリエイティヴではない職業にも、クリエイティヴな能力は必須になる」と断言する理由について。(聞き手、文/ミアキス・梶塚美帆、構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

働く人の3割以上は「クリエイティブ・クラス」Photo: Adobe Stock

今ある仕事の3割はクリエィティヴ

 今ある仕事の3割はクリエイティヴな職業だと言われています。

 2000年代初頭、リチャード・フロリダというアメリカの社会学者が『クリエイティブ資本論』(邦訳・ダイヤモンド社)という本で、クリエイティブ・クラスという新しい階級を定義しました。

 クリエイティブ・クラスとは、簡単に言うと、創造的で革新的な仕事の役割を担う人たちのことです。フロリダによると、クリエイティブ・クラスに該当するのはアメリカの労働力の約3割にも上り、その割合はより今後より一層増えていくとのこと。

 これを聞いて「そんなに多いの?」と驚かれたでしょうか。でも、おそらく日本も同じです。クリエイターやデザイナーなどのわかりやすい職種に限らず、一般企業でもクリエイティヴィティが求められる仕事に就いている人はとても多いです。

 宣伝や広報はもちろん、研究開発に携わっている人や、組織改革をやろうとしている人もそうでしょう。「前例がないものに取り組む」という意味で言えば、クリエイティヴな仕事に就いている人は3割よりももっと多いのではないかと僕は思っています。

地方公務員も銀行員も
クリエイティヴを学んでいる

 僕は12年前から「編集スパルタ塾」という社会人向けの講座を開いています。内容はクリエイティヴに関するもので、書籍や雑誌の企画から、広告キャンペーン、ウェブのコンテンツ、アプリの企画案などの課題が出ます。拙著『インプット・ルーティン 天才はいない。天才になる習慣があるだけだ。』に書いたような、ハードな知的インプットの方法も教えています。

 受講者で一番多いのは広告代理店に勤めている方です。他には、エンジニアの方や、地方公務員や銀行員の方なども多くいらっしゃいます。

 地方公務員や銀行員は、一見クリエイティヴではない職業だと思われるかもしれません。でも、僕はそうは思わないです。たとえば銀行でも、自分たちで新しい事業を立ち上げることはあります。クリエイティヴな案件の将来性を予測し、投資の判断をすることもあるでしょう。

 アメリカの銀行は特にそうです。たとえば、大作映画の制作費は投資会社や銀行から集められます。映画会社一社では賄えないからです。どれくらいの額になるか例を出すと、2023年に公開された『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』の制作費は約3億ドル(約430億円)です。

 そうなると、銀行員でも映画の価値を判断できるようにならなければいけません。ヒットするシナリオかどうか判断する。この監督とこの主演にいくら突っ込んだら、どのぐらいリターンがあるのかを予測する。そういったクリエイティヴな判断が必要なのです。

 このように、自分でクリエイティヴィティを発揮しなくても、クリエイティヴな判断能力が求められることはよくあります。ですから、どんな職業に就いていても、クリエイティヴのスキルは必須だし、今後その重要性はますます増大していくことでしょう。

 クリエイティヴ・スキルは、決してクリエイターだけに必要なものではないのです。

(本記事は『インプット・ルーティン 天才はいない。天才になる習慣があるだけだ。』の著者・菅付雅信への特別インタビューをまとめたものです)

菅付雅信(すがつけ・まさのぶ)
編集者/株式会社グーテンベルクオーケストラ代表取締役
1964年宮崎県生まれ。『コンポジット』『インビテーション』『エココロ』の編集長を務め、現在は編集から内外クライアントのコンサルティングを手がける。写真集では篠山紀信、森山大道、上田義彦、マーク・ボスウィック、エレナ・ヤムチュック等を編集。坂本龍一のレーベル「コモンズ」のウェブや彼のコンサート・パンフの編集も。アートブック出版社ユナイテッドヴァガボンズの代表も務め、編集・出版した片山真理写真集『GIFT』は木村伊兵衛写真賞を受賞。著書に『はじめての編集』『物欲なき世界』等。教育関連では多摩美術大学の非常勤講師を4年務め、2022年より東北芸術工科大学教授。1年生600人の必修「総合芸術概論」等の講義を持つ。下北沢B&Bにてプロ向けゼミ<編集スパルタ塾>、渋谷パルコにて中学生向けのアートスクール<東京芸術中学>を主宰。2024年4月から博報堂の教育機関「UNIVERSITY of CREATIVITY」と<スパルタ塾・オブ・クリエイティビティ>を共同主宰。NYADC賞銀賞、D&AD賞受賞。