人を頼むよりはいいから、私も一緒に行くと津村が言って2人旅になる。

〈学習院の友達が聞いたら正気の沙汰ではない、と言うだろう。大道商人と五十歩百歩である。〉(津村『三陸の海』講談社文庫)

北の果てへ流れる旅
新婚夫婦の商売奮闘記

 見知らぬ町で、もちろん2人とも商売など初めてだった。

 青森県の八戸では東北物産展が開かれていて、山形の純毛セーターは飛ぶように売れた。

 これで東京に帰れると津村は思ったが、最終日に吉村は売り上げを入れていた財布をすられてしまう。全財産を失い、東京に帰る旅費のためにも再び商いをするしかなく、商品を取り寄せて2人は北海道に渡った。

 当の吉村は行商の旅を楽しんでいるようだった。

 小説を書くための取材旅行だとでも思っていたようで、2、3日して慣れてくると津村に店番をさせて出かけてしまう。初めて訪れた北国の町をぶらぶら歩き、映画を見たりしていた。商売に失敗して、現物を抱えてさすらっているという悲壮感はなかった。「新婚の夫はほっつき歩いている」という司の話は、そのことをさす。