「あなたの職場では、いつも部課長だけが会議を仕切っていませんか?」
そう語るのは、これまでに400以上の企業や自治体等で、働き方改革、組織変革の支援をしてきた沢渡あまねさん。その活動のなかで、「人が辞めていく職場」には共通する時代遅れな文化や慣習があり、それらを見直していくことで組織全体の体質を変える必要があると気づきました。
その方法をまとめたのが、書籍『組織の体質を現場から変える100の方法』です。社員、取引先、お客様、あらゆる人を遠ざける「時代遅れな文化」を変えるためにできる、抽象論ではない「具体策が満載」だと話題。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、「会議の仕切り役が固定されている職場」の問題点について指摘します。

【だから人が辞める】若手社員に活気のない職場が「会議」でやってしまっていること・ワースト1部課長だけが会議を仕切っていないか?(イラスト:ナカオテッペイ)

いつも同じ「偉い人」が会議を仕切る組織

 会議や商談を誰が仕切るかにも組織の特徴が出る。
 儀礼を重んじる組織ほど会議は上位者、すなわち部課長などの役職者が仕切るケースが目立つ。あるいはその議題の責任者や、勝手知ったるベテランが場を仕切る。そこには、参加者に失礼があってはならないという思いがあることも。

 詳しい人が仕切るほうが話が早い。そのメリットもわからなくはない。
 一方で、部課長など上位の役職者が仕切る会議にはマイナスの面もある。

 ・場の雰囲気が堅くなりがち
 ・自由な発想や意見が出にくい
 ・役職者でないメンバーや若手、新参者が意見を言いにくい

 どんなに丁寧な進行をしても、役職や権限がある人ばかりが場を仕切っていると出てくるアイデアや意見に偏りが生まれがちである。

場に応じて進行役を変えてみよう

 問題は、いつも上位者が仕切っていることではない。会議の景色が固定され、マンネリ化する点にある。

 議題や目的、あるいは事情に応じて進行役を変えてみよう。
 
たとえば、自由な発想を促したい会議なら若手に進行役を任せる。あるいはチームの定例会は中堅のメンバーに任せてみる。持ち回りで進行役を変えるのも会議の景色を変えるには効果的だ。

 ただし進行役を一人に押し付けるのは重荷になる場合もある。進行役を複数名に任せたり、補佐役をつけたりするのも有効だ。

<会議における役割の例>
 ・進行役(メイン&サブ)
 ・書記役/スライド操作役
 ・タイムキーパー

 役割分担により、進行役の負担は軽減でき、心にゆとりも生まれる。

 会議の議題や目的によってはメイン役とサブ役の対話形式で会議を進行するのもよい。参加者が共感できる接点や機会が増え、同意を示したり、意見や質問をしたりしやすくなって会議の景色に広がりが生まれる。

ただし、後でくどくどと文句を言うのはNG

 役割を持ち回りにする場合、注意したい点がある。進行に対して後から文句を言うのはご法度だ。

 誰もがいきなり会議をうまく進行できるわけではない。後になって「なぜ、あそこで予算の話をしたの?」「あのタイミングでコストの話をすべきではないのでは?」など、会議が終わってから批判的なコメントを寄せる人がいる。これをやると、「とやかく言われるなら、進行は部課長に任せてしまおう」と、振り出しに戻ってしまう。
 なにより評論家のような態度は会議を進行する人を不快な気持ちにさせる。会議が有意義な場にならない。

 筆者にも経験がある。グローバル企業に勤務していた頃、海外拠点の部門長との英語でのオンラインミーティングの司会進行を、筆者を含む中堅と若手がいつも行っていた。
 日本拠点の部長陣は「英語が苦手だから」と及び腰。仕方ない部分もあるが、会議が終わってから「なぜ、この点を質問しなかったの?」「あれについてはもっと深い議論を促してほしかったなぁ」など、さも評論家のようなコメントを浴びせてくる部長に閉口した。

「だったらその場で発言してください。僕たちは進行で必死なんです!」

 思わず語気を荒げて言ってしまったものだ。

 文句を言うのではなく、足りていない観点をその場で投げ込む、あるいは助言をするなど、良い場づくりのためにできることをして、共に場を良くしようとする当事者意識を持とう。
「任せる」とは「手助けしない」ではないし、ましてや「後で文句を言う」でもない。会議に評論家はいらない。

全員のファシリテーション能力を高めよう

 進行役は会議のテーマや目的、状況などに応じて柔軟に指名してもいいし、手挙げ式で決めてもいい。その結果、会議のマンネリ化を防ぎ、さまざまな意見やアイデアが出るようになる。

 そのためにも研修などはもちろん、皆がファシリテーションを実践する場を日常的に設け、スキルを磨こう。その力が効果を発揮するのは会議の進行にとどまらない。

 ・商談やプレゼンテーションをうまく進めることができる
 ・1on1ミーティングの進行がスムーズになる
 ・イベントの企画や運営がこなれてくる
 ・組織の問題・課題発見力と解決力が高まる

 ファシリテーション能力はさまざまなビジネスシーンにおいて効果的なスキルであり、ビジネスパーソンとしての一生モノの宝である。その向上は、なによりのスキルアップであり、組織力向上の意義も大きいのだ。

一歩踏みだす!

 ・会議の進行役を固定化せず、さまざまな人が進行役を経験してみる
 ・ファシリテーション能力を身につけ実践する 

(本稿は、書籍『組織の体質を現場から変える100の方法』の内容を一部抜粋・編集して作成した記事です)

沢渡あまね(さわたり・あまね)
作家/企業顧問/ワークスタイル&組織開発/『組織変革Lab』『あいしずHR』『越境学習の聖地・浜松』主宰/あまねキャリア株式会社CEO/株式会社NOKIOO顧問/プロティアン・キャリア協会アンバサダー/DX白書2023有識者委員。日産自動車、NTTデータなどを経て現職。400以上の企業・自治体・官公庁で、働き方改革、組織変革、マネジメント変革の支援・講演および執筆・メディア出演を行う。『チームの生産性をあげる。』(ダイヤモンド社)、『職場の問題地図』(技術評論社)、『「推される部署」になろう』(インプレス)など著書多数。