大竹 もうひとつの面白さは、「伝統的な経済学」の「常識」からはみ出る動きが、「経済学」のなかで起きていることです。
「伝統的な経済学」では、経済活動を営む人間を、すべて合理的な存在と考えます。それが、よく知られる「合理的な経済人(ホモ・エコノミカス)」です。
けれども、ひとりひとりの人間の日々の経済活動が、合理的な判断にもとづいているかというと、必ずしもそんなことはありません。貯蓄をしたくてもできないとか、ダイエットをしたいのにできないとか、ギャンブルにはまってしまうとか、人間には、感情や直感に流されて苦しむ不合理な側面もあります。
しかも、その不合理な側面には、多くの人に共通する一定の「パターン」があることが知られています。そのパターンを考慮に入れると、合理的な人間像だけでは説明しきれなかった経済現象を説明できるようになるのが、また面白いところです。
それが、「行動経済学」と呼ばれる、「経済学」のなかでも比較的新しい分野です。人間の不合理さに焦点を当てて、経済現象を合理的に説明しようとするのが、「行動経済学」の醍醐味です。
今回の「おかね道」で取り上げられている10の実験のなかには、「行動経済学」の研究でよく知られる実験もあって、実際に体験することができます。人間の経済行動が、いかに不合理な直感や感情に支配されているか。そのことに驚かれる人も多いのではないかと思います。
夏休みの宿題をいつやるか?
――経済学の先生から感情について力説されるとは、思ってもいませんでした。人間の不合理さを示す具体的な例を、ひとつ詳しく紹介してください。
大竹 典型的なのは、夏休みの宿題をいつやるか、ということです。