大竹 毛利さんのことは、みなさんもよくご存知だと思います。日本人で初めてスペースシャトルに乗った宇宙飛行士であり、科学者でもあります。その毛利館長が、未来館のスタッフたちがこの企画を提案した当初、「経済学」というのは「お金儲けのための学問だ」と、思っていらしたそうですし、私が初めてお会いした時も、まだ経済学にそういう印象をお持ちのようでした。

 でも、毛利館長の反応も無理のないことかもしれません。何を隠そう、私自身が高校生の頃、経済学部に入って「経済学」を勉強したいと思ったのも、「将来の景気や株価が予測できて、お金儲けがうまくなるかもしれない」という期待にあったからです。今となっては笑い話ですが、とにかく、世間の人が思い浮かべる「経済学」のイメージには、「お金儲け」がまとわりついています

 とはいえ、「経済学」が、「お金儲け」とまったく無縁だということではありません。景気変動の予測や株価形成の要因を研究することも、「経済学」の重要なテーマのひとつです。けれども、必ずしもそれだけが「経済学者」の主要な仕事ではないのです。

 むしろ、世間の人が「経済学」や「経済学者」に抱くイメージと、「経済学者」が実際にしている研究とは大きなギャップがあります。

 世間の人から「経済学」は誤解されていますし、私自身も大学に入るまでは、「経済学」を誤解していたのです。

「経済学」の2つの面白さ

――先生も誤解されていたとは、驚きです。では、先生が感じられている「本当の経済学」の醍醐味とは、何でしょうか?

大竹 「経済学」には大きく2つの面白さがあります。

ひとつが、複雑な社会現象をシンプルな原理で説明するということです。「経済学」の技術で社会を分析すると、それまで見えていなかった現実の姿が見えてくることがあります。

 たとえば、所得格差の拡大という現象があった場合でも、高技能者や低技能者に対する需要と供給ということを考えると簡単に説明ができます。コンピューターを中心とした技術革新のために、人の仕事はコンピューターの苦手な仕事に移ってきました。つまり、労働者に対する需要は、対人サービスや企業経営や製品のアイデアを考える仕事を中心に増加して、コンピューターが得意な定型的な事務仕事は減少しました。そうやって、需要や供給の変化を考えるだけで、需要が増えたタイプの仕事の賃金が上昇し、伝統的なホワイトカラーの仕事の賃金が低下したことが説明できてしまいます。需要と供給、インセンティブという概念をしっかり理解するだけで、様々な社会の出来事を説明できるのです

 一流スポーツ選手や一流芸能人は高額の所得を手にできるのはなぜか、保険に入っても一定額までカバーされない部分があるのはなぜか、をはじめとして、世の中には、すぐには理由がわからないことが多いと思いますが、経済学を学べば、こういうことに簡単に答えられるようになります。