錦織圭、マリア・シャラポワ、大坂なおみ、ネリー・コルダ……指導した数々の選手を世界トップレベルに導いてきたトレーナー界のカリスマ、中村豊。彼に指導を受けた選手たちは、アスリートとして大幅なステップアップを遂げています。
中村はトレーニングによってのみ身体能力が向上するわけではなく、必要なのは「トレーニング」「リカバリー」「栄養」の3つのメソッドだと語ります。そして、この3つを適切に行えば、一般の人でも身心が健全に整い、若さを持続できると主張するのです。その実践方法を分かりやすく具体的にまとめたのが、中村の初著書『世界最高のフィジカル・マネジメント』です。本連載では中村トレーナーが教える、誰もが簡単に出来るトレーニング法を紹介していきます。
今回ご紹介するのは、股関節の可動域を広げるエキササイズです。お尻を固定して、股関節と膝関節を90度の角度に保ちながら行うので「ヒップ90・90」と呼ばれています。股関節は、立つ・歩く・走るといった日常の基本動作で最も多く使われる要ともいうべき関節です。股関節の可動域が広がると身体が正常な状態に保たれ、若く健康な肉体を維持することができます。また「ヒップ90・90」は硬くなりがちなお尻の筋肉を緩める効果もあるのです。

股関節の可動域を広げるエキササイズPhoto: Adobe Stock

股関節の柔軟さが大切な理由

 股関節は球関節といって大腿骨(だいたいこつ)が骨盤(こつばん)にはまる形になっています。大腿骨の先は丸く球状になっていて、骨盤はそれを覆うソケットのような形状をしています。球関節はさまざまな方向へ動かすことができます。そのため股関節は常に柔軟である必要があるのです。

 この股関節の可動域が狭くなってしまうと、他の関節がその動きを補わなければならなくなり、ケガや慢性痛の原因になります。股関節の可動域が原因で起こる代表的なトラブルが「腰痛」です。

「ヒップ90・90」は股関節の可動域を広げ、関節の自由度を向上させるのに最適なエキササイズです。股関節をほぐすのに有効であると同時に、下半身の不調の要因となるお尻の筋肉のコリもほぐしてくれます。日常生活で多く使われる部位なので、丁寧にほぐしていきましょう。

股関節の可動域を広げる
最強のストレッチ法

「ヒップ90・90」で注意すべき点は股関節と膝関節を常に90度に保っておくことです。

 まず【写真1-1】【写真1-2】のようにお尻を床につけて両手を後ろにつき、膝が90度になるぐらいの位置に足を置きます。上半身は後方30度くらいの角度で、両腕でしっかりと支えて固定します。アゴを引いて、胸を張る感覚を持つとより効果があります。頭の位置が胸、膝に沿って一直線を描くイメージです。左右対称を意識してください。

「ヒップ90・90」ストレッチ【写真1-1】斜め横から見た状態。お尻を床につけて両手を後ろに
「ヒップ90・90」【写真1-2】正面から見た状態

 次いで【写真2】のように、右膝を内側に、左膝は外側に倒し、両膝を床に押しつけます。

「ヒップ90・90」【写真2】股関節、各膝の角度は90度に保つ

 この状態から、さらに【写真3】のように体重を左側へ移していきます。この状態でしっかり身体をストレッチしましょう。

「ヒップ90・90」【写真3】身体を倒しても股関節、各膝の角度は90度に保つ

 この一連の動作を足を左右入れ替えて5回繰り返してください。毎日行うことで確実に股関節の可動域が広がってくるはずです。

(本記事は、『世界最高のフィジカル・マネジメント』から一部を抜粋・編集して掲載しています)

中村 豊(なかむら・ゆたか)
ストレングス&コンディショニングコーチ
1972年生まれ。高校卒業後アメリカにテニス留学。スポーツトレーナーという職業に興味を持ち、カリフォルニア州チャップマン大学で運動生理学、スポーツサイエンスを学ぶ。1998年、サドルブルック・テニスアカデミーのトレーニングコーチに就任。2000年、女子テニスプレーヤー、ジェニファー・カプリアティのトレーナーに就任し、翌年世界No.1に導く。2004年よりIMGアカデミーに所属し、錦織圭のトレーニングを14歳から20歳まで受け持つ。2011年よりマリア・シャラポワの専属トレーナーに就任。シャラポワの黄金期を7年間支える。2020年6月、大坂なおみの専属トレーナーに就任。わずか2ヵ月でスランプに陥っていた大坂を再生させ、全米、全豪と立て続けのメジャータイトル奪取に貢献。世界のプロスポーツ界で最も注目されるフィジカルトレーナーのひとり。トレーナーとしての豊富な経験と知識を生かし、一般の人に向けた入門書『世界最高のフィジカル・マネジメント』を上梓した。