根気強くひとつのことを考えられない、寝ても疲れが取れない、歩くのが遅くなった……。「老い」は気付かぬうちに少しずつあなたを蝕んでいく。老いを少しでも遅くしたいと願わない人などいないだろう。そこで、食事術や生活習慣といった「不老術」をアメリカの名医がまとめた本が誕生、NYタイムズベストセラーに選ばれ、エリック・シュミットといった数多くの著名人から絶賛を受けている。世界9カ国以上で刊行の話題作『医者が教える最強の不老術』より、内容の一部を編集して特別に公開する。

現代人と狩猟採集民、「腸内細菌」の決定的な違いPhoto: Adobe Stock

狩猟採集民は現代的の約10倍
「食物繊維」を食べている

 便と健康の関係に最初に気づいたのは、20世紀半ばのアフリカに医療宣教師として出かけていたアイルランドの医師、ドクター・デニス・バーキットだ(*1)。

 狩猟採集民の部族集団と、都市に移り住んだ彼らの遺伝的な親族との違いを観察したバーキットは、シンプルだが深い見解に達した。狩猟採集民の1日の便の重さが平均約900グラムだったのに対して都市生活者のそれはわずか約110グラム、また狩猟採集民は現代的な慢性病をまったく抱えていなかったが、都市生活者のほうは、それらの病気をすべて抱えていた

 その違いとは?食物繊維だ。そして食物繊維は善玉腸内細菌のエサである。狩猟採集民は食物繊維を1日平均100グラムから150グラム食べていた

 現代の欧米型の食生活に食物繊維は1日8~15グラムしか含まれておらず、1日の推奨量(1日約30グラム)を摂取しているアメリカ人は全人口の5%にも満たない(*2)。マイクロバイオーム[ヒトの体に共生する微生物の集団全体、微生物叢]という概念は登場さえしていなかったものの、食生活と便と慢性疾患の関連性はずっと以前から明らかだったのだ。

 バーキットは次のように記している。「主にみずから育てた野菜を食べて暮らしている人々を治療したアフリカでは、アメリカとイギリスで最も一般的に目にする疾患をほとんど見ることはなかった。つまり、冠状動脈性心臓病、成人発症の糖尿病、静脈瘤、肥満、憩室炎、虫垂炎、胆石、虫歯、痔、食道裂孔ヘルニア、便秘といった疾患は見られなかったのだ。欧米型の食生活はかさが非常に低くカロリーが非常に高いため、腸は健康維持に十分な量を排出できないのである(*3)」

 1908年に免疫学の研究でノーベル賞を受賞したイリヤ・メチニコフが、腸内細菌と健康および長寿の関連性に初めて気づいたのは、ヨーグルトを食べるバルカン半島の百寿者を調べたときだった(*4)。

 彼は、腸内細菌が腸の内壁から漏れ出すことと炎症および慢性病、とりわけ心臓病との関連について仮説を提唱した。彼の理論は当初は支持されたものの、その後、従来の医学によって否定されてしまった。

 だが今やマイクロバイオームは、アメリカ国立衛生研究所(NIH)の「ヒト・マイクロバイオーム・プロジェクト」をはじめ、官民を問わず熱心な研究対象になっており、プロバイオティクス[身体によい影響を与える善玉菌およびそれらを含む食品や製剤]は、数十億ドル規模の産業に成長している。メチニコフの先見の明のある業績は、マイクロバイオーム革命から便微生物移植(FMT)までの基礎を築いたのだった。

 医学界から長いあいだ無視されてきた腸の生態系は、現在では、がん、心臓病、肥満、2型糖尿病、パーキンソン病、認知症、さらには自己免疫疾患、アレルギー、気分障害、自閉症など、ほぼすべての慢性疾患との関連性が確認されている。

 では、ウンチはどうなのだろうか?あなたの腸内には、あなたの身体の細胞と同じくらい多くの細菌細胞が存在するが、その種類は1000以上におよび、それらにあなた自身のDNAの100倍ものDNAが含まれている。言い換えれば、あなたはたった1%しかヒトではないということだ!

 平均的なヒトの血液サンプルでは、代謝産物の3分の1から半分までが腸内細菌に由来すると推定されている。善玉菌は健康を作り、悪玉菌は病気を作る(*5)。バランスが崩れた腸から、最適な健康と長寿を手に入れるのは不可能だ。

 現代人の便の状態は、恐ろしいほど危険な状態にある。狩猟採集民の便を調べると、現代人のそれとは大きく異なる微生物で構成されていることがわかる。なぜ現代人のウンチは堆肥の山ではなく、汚水槽になってしまったのか?

 私たちは腸を破壊する世界に生きている。食物繊維が少なく、加工食品、糖、食品添加物、農薬、除草剤(特に微生物を破壊する除草剤グリホサートは、世界の農作物の70%に使用されている)に満ちた欧米型の食生活と、アシッドブロッカー、抗炎症剤(イブプロフェンやアスピリンなど)や抗生剤などの腸を破壊する薬剤との組み合わせは、マイクロバイオームの構成を劇的に変え、シンバイオーシス(共生)ではなく腸内細菌の不均衡、すなわちディスバイオーシス(腸内菌共生バランス失調)を助長している。その結果は、病気を引き起こし、老化を加速させる有害なマイクロバイオームの誕生だ。

参考文献
*1 Burkitt DP. “Are Our Commonest Diseases Preventable?” Prev Med. 1977;6:556-59.
*2 Quagliani D, Felt-Gunderson P. “Closing America’s Fiber Intake Gap: Communication Strategies from a Food and Fiber Summit.” Am J Lifestyle Med. 2016 Jul 7;11(1):80-85.
*3 Coffin CS, Shaffer EA. “The Hot Air and Cold Facts of Dietary Fibre.” Can J Gastroenterol. 2006 Apr;20(4):255-56.
*4 Mowat AM. “Historical Perspective: Metchnikoff and the Intestinal Microbiome.” J Leukoc Biol. 2021 Mar;109(3):513-17.
*5 Wikoff WR, Anfora AT, Liu J, et al. “Metabolomics Analysis Reveals Large Effects of Gut Microflora on Mammalian Blood Metabolites.” Proc Natl Acad Sci USA. 2009 Mar 10;106(10):3698-703.

(本原稿は、『医者が教える最強の不老術』から一部を抜粋し編集しています)