2024年1月1日、食道がんで亡くなった経済評論家の山崎元さん。闘病の最中、忖度なく力強い言葉で人生観から金融業界の問題点までを遺されました。そんな山崎さんの大切な言葉をまとめた書籍『がんになってわかった お金と人生の本質』から、抜粋して紹介します。
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予想と希望を混同させない
現在(2023年7月)、癌の状態はステージIV。多くの場所に遠隔転移していて、一般論でいえば先は長くない。かつては酒を飲み、美味しいものを食べ、語り合うことが好きだった。しかし、癌によって禁酒することになり、食道癌だから食べられる量も減り、リンパ節への転移によって反回神経が麻痺して声が出しにくくなった。好きで得意な順番に、楽しみを潰されている気がする。
しかし、予想と希望を別物であると考えると、そんなに悲観する毎日ではない。残りの全期間を今と同じように過ごせるかどうかはともかくとして、もし余命が1年あれば、会いたい人に会えるだろうし、本だって3冊は出せるだろう。
そこに希望を混ぜてしまうと、景色はまったく異なる。例えば、娘が大学に入る数年後まで生きていたいと考えると、途端に叶えられる確率が下がる。予想の元に享受していた日々の輝きも霞む。予想と幸せを混同するのは、不幸なことだ。
お金にも同じことが言えるだろう。希望に予想を寄せようとすると良くない。代表的な例が、FP(ファイナンシャル・プランナー)が使うライフプランニングシステムだ。35歳でマイホームを建てたいとか、引退する時にはどれくらい金融資産を持っていたいという希望があったとする。FPは、その「希望」を叶えるためにはこれくらいのお金が必要ですよと言って、固定の変動率で収入や支出の推移を計算し、保険を含めたリスク資産を提案してくる。
しかし大体の場合、その提案に乗っても希望は叶わない。なぜなら、FPが提案するアセットアロケーションは、期待リターン(希望リターンといってもいいだろう)に基づいて、リスクを無視して決められてしまっているからだ。だから、FPの提案は当てにならない。そして、希望は、予想と乖離していく。
こういうFPが後を絶たない原因の一つはメディアにある。例えば、長期投資でリスクを低減できるとよく言われるが、これは金融論的には誤りだ。取材を受けるたびに記者に対してレクチャーしているが、新聞などのメディアは伝統的に知識を継承しないため、後任の記者に一から説明することになる。